アルコル

二十歳




 一日の終わり。ディーノはソファーで晩酌をしていた。毎日飲むほど酒好きというわけではないが、たまに欲しくなる。
 何よりも、今は隣で、好きな女性が酌をしてくれるのだから、前よりも頻度が増えても仕方ないだろう。普通の酒だって数百倍美味くなるに決まっている。

「お酒、美味しいですか?」
「ああ、美味いぜ、がお酌してくれるから尚更な」

 に笑顔を向けて答える。いつもなら、少し頬を赤らめつつ、嬉しそうに返答が返ってくるが、今回は少し違うようだ。

「私も飲んでみたいです」

 はこの間二十歳になった。つまりは、飲酒が許される歳だ。

「ああ、ならグラスを」
「これがいいです」

 新しくグラスを持ってこさせようかと思ったら、はディーノの手から、グラスを取った。

「ディーノさんと同じの飲みたいから」

 とはにかんで言われてしまえば、ディーノは何も言えない。というか、嬉しいとさえ思ってしまうのは、惚れた弱みだろう。

「あ、美味しい」

 一口飲むと、そんな声が漏れて、二口、三口とちょっとずつ飲んでいる。
 ディーノが飲んでたのは、甘目の果実酒ではあったが、度数が低いわけではない。
 飲んでいるうちに、の頬がピンクに染まり、目がトロンとしている。

「飲み過ぎるなよ?」
「はーい。だいじょうぶれすよー。ふふ」

 酔ってる。完璧に酔ってる。決して多い量ではないが、少ない量でもない。まして、初めて飲むとすれば、酔いが早く回っても不思議はないだろう。

「ディーノさぁん」

 が、ディーノの腕に絡みつく。
 普段からスキンシップは多い方だが、今回はそれとは違う。いつもは素面で、今のは、頬をピンクに染め、トロンとした瞳で嬉しそうな表情でディーノを見ている。
 その状態でくっつかれたら、ちょっとヤバイ。嫌だというわけではなく、むしろその逆で。
 理性がどこまで持つかという勝負をする羽目になりそうだということで。
 夫婦だからそういう流れになったとしても、問題はないとは思う。が、酔った女性に手を出すというのは男としてどうだろうか、とも考えてしまうのだ。

「ディーノさぁん。ちゅー」
「えっ?!」
「だめぇ?」

 突然の要求に狼狽えると、は残念そうな表情をする。

「ダメ……じゃないです……」

 と答えると、すぐさま嬉しそうな表情になった。
 明日、はこのことを覚えているのだろうか? と思いながら、彼女に口付けた。

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