美声

高校二年




「で、この間、皆でカラオケに行ったんですよ。そしたら、皆、すっごく上手くて」

 休日、休みが取れたディーノと歩くは、いつものように、最近の出来事を話す。
 そんなの話を、ディーノは楽しそうに聞いていた。
 しかし、の話を聞いていて、ふと思い至る。

「よし、じゃあ、今からカラオケ行こうぜ」
「え? カラオケですか?」

 唐突なディーノの提案に、は若干目を丸くする。

「ダメか?」

 の返事がなく、ディーノは不安そうな表情で、尋ねる。
 自分よりも、遥かに大人なのに、こういう表情をされると、可愛いとさえ思ってしまう。

「ダメじゃないですよ。行きましょう!」

 ディーノに笑顔を向け、は彼の手を引いた。


 カラオケの部屋と言えば、個室。しかも、狭い。
 そこに、ディーノと二人っきりとなると、緊張しても仕方の無いことではないかと思う。
 もちろん、隣の部屋は、部下達が抑えているらしいが、彼らは、彼らで楽しんでいるはずだ。

「えっと、ディーノさん、先に歌います?」
「そうだなー。あまり、日本の歌知らねえんだけど……」

 ディーノの歌を聴けるのは、嬉しいが、逆に自分の歌声をディーノに聞かれることになる。
 それは、ちょっと恥ずかしい。
 友人とカラオケに行くのとは、全く心境的に違う。


 何曲か歌っているうちに、緊張も無くなってきた。
 ディーノの声はいい。歌も上手い。
 しかし……。

「ふぅ。歌うと、喉が乾くよなー。あっ!」
「あっ!……セーフ……」

 歌い終わり、マイクを置こうとしたディーノは、お約束通り、置いてあるドリンクにひっかける。
 はそれを何とか倒れる直前で、止めた。
 何しろ、これが始めてではない。
 カラオケが始まってから、何度かドリンクを倒しているのだ。
 きっと、立って歌うなどしていたら、机か椅子に躓いているんだろうと思う。
 普段、カッコイイのに、たまにこういったことがある。そんな姿を見ても、嫌いになれない自分は、ディーノにかなり、溺れているんだろうなと思う。

「次、の番だぜ」
「あ、はい……えっと、大体歌っちゃったし……」
「思いつかないなら、リクエストしていいか?」

 デンモクを見つつ、曲を探すに、ディーノはそんな提案をする。

「リクエスト、ですか? 私が歌えるのなら……」
「歌えるって聞いてるから、大丈夫だろ」

 そういいつつ、ディーノは何やら、デンモクで検索している。

「お、あった、あった」

 ディーノが見つけた曲を見るため、は、デンモクを覗き込む。

「これ……ですか?」
「おう!」

 歌えなくは無い。いや、むしろ、よく歌う。
 そっと、ディーノをみると、ディーノの期待した視線とぶつかる。
 別に変な歌を指定されたわけではない。
 可愛い歌だ。可愛くて好きな歌ではあるけど、ディーノの前で歌うのは、ちょっと気恥ずかしいとも思う。
 原因は、ひとえに、皆で行ったカラオケで、散々、ディーノへの想いを込めて歌え、と友人達に言われたからだが……。

「分かりました。あんまり上手くないですよ?」
「そんなことないだろ。それに、の歌声ならいくらでも聞きたいしな」

 笑顔で、照れもなく言われると、こっちが赤くなってしまう。
 折角、この空間にも慣れてきたのだから、早く歌い始めて、曲に集中しようと、送信ボタンを押した。


 歌い終わると、パチパチと拍手の音がする。
 が歌っている間中、ディーノの視線を意識してしまって、ずっと、ドキドキしっぱなしだ。
 変に可笑しい歌は聞かせられないと、できるだけ、頑張った。

「……以上です。ディーノさん?」

 今も顔が熱い。

「……可愛いな、はっ!」

 反応のない、ディーノの様子を伺うように声を掛けると、抱きしめられた。
 が、部屋の電話の音が部屋に響く。

「あ、電話!」

 は、逃げるように、設置された電話を取る。
 が話している様子を見ていたが、折角抱きしめたのに、あまりにも短い時間で、ディーノは残念に思っているようだ。

「はい、分かりました。……ディーノさん、そろそろ時間だそうです」

 が帰る時間もあるからと、予め時間を決めてあったのだ。しかし、時が経つのは早くて、あっと言う間。

「そっか、もう出るか?」
「えっと、最後にもう一度、ディーノさんの歌を聞いてみたいなって……」

 時間がくるまでは、あと十分ほどある。それだけあれば、一曲は歌えるはずだ。

「ダメ、ですか?」

 にそうお願いされて、ディーノが嫌と言えるはずもない。ディーノは、少し考えて、一曲入れた。
 バラード系で、遠距離恋愛の相手への想いを男性視点で歌った歌。
 実際にディーノとは、住んでいる処が離れているから、ちょっと、似ているようにも思える。
 しかし、今の状態は、友達以上恋人未満だ。正式に恋人ではない。
 と、そこまで考えてちょっと、悲しくなる。
 でも、この歌詞と、ディーノの想いが一緒なら、嬉しいなと思いながら、聞いていた。

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