背伸び
高校三年
この日に休みを取るために、ディーノは、全ての仕事を片付けてきた。
この日が、日曜日であることで、普段滅多に会えない彼女と一日中一緒に居られる。
イタリアと日本。この遠い距離はどうしたって埋められない。しかも、ディーノは仕事が忙しくなれば、連絡すら取れないことが多い。
きっと、彼女に寂しい思いをさせてるのだろう。会いたいと滅多に彼女は言わない。もっとわがままを言ってくれてもいいのにと思う。
そんな彼女が、彼女の誕生日の日は会えるかと聞いてきたのだ。これは死ぬ気で休みを取って日本に行けるようにしなければと、ディーノは寝る間も惜しんで、仕事を片付けた。
「ディーノさん」
「っ!」
の家まで迎えに行くと、彼女は家の前で待っていた。
「Buon compleanno! 誕生日おめでとう、」
ディーノは、用意していた花束をに渡す。
「わぁ、綺麗ー。ありがとうございます」
は、花束を受け取ると、笑顔でディーノにお礼を言った。
彼女の私服姿を、見たことがないわけではないが、大体会うのは彼女が学校帰りの時だ。
今日のは、オレンジ色のワンピースを着ている。少しだが、化粧もしているようだ。その所為か、少し大人っぽく感じる。
「今日は、一日中に付き合ってやれるからな」
「はい」
は、本当に嬉しそうに微笑みながら、ディーノが差し出した手を取った。
ワンピースの首元から、チラチラと、チェーンが覗き、の指には指輪が光っているのを見て、ディーノは嬉しくなる。
こうやって、二人っきりで過ごせるのはいつ振りだろうか。いつもなら、部下を連れているが、今日は誰も連れてはいない。どうしても二人っきりで過ごしたかったのだ。
「、次はどこに行きたい?」
ショッピングも、食事も一通り終え、今日はの行きたい所に連れて行ってやろうと思っていた。
「行きたい所……。じゃあ、ディーノさんの泊まってるホテルに行きたいです」
「ええっ?」
のとんでもない発言に、ディーノは目を丸くする。
「……ダメ、ですか?」
自分を見上げて、お願いしてくるに思わず肯定の返事を返してしまいそうになる。が、寸での所で理性がストップをかける。
「ダメとかじゃ……」
「一回入ってみたかったんですよねー。スイートルーム」
「スイートルーム?」
「はい。前に、スイートルームってどんなだろうって話になった時、リボーンがディーノさんなら、きっとスイートに泊まってるだろうから、見せてもらえって」
の無邪気なお願いに、ディーノは脱力する。そして、彼女にとんでもない発言をさせる原因を作った、自分の元家庭教師を恨みたくなる。
ディーノはあらぬ期待を抱いてしまったが、にそんな気は少しもなく、そして、リボーンはディーノがそう思うことを分かって言ったに違いない。
「分かった。がそこまでいうなら」
「ホントですか!」
嬉しそうに、ウキウキとしているを見ると、まあいいかと言う気になった。
「すごーい、広ーい」
は部屋を見渡している。
「部屋がいっぱいあるー」
スイートルームといえば、そこで生活できるだろうというくらい、全てのモノがそろっている。それは備品だけではなく、部屋もだ。
「ベットもふかふか」
は、ディーノに断って、ベッドの上に座っている。
が、彼女の格好が問題だ。別に可笑しな格好をしているわけではない。
彼女は今まで来ていた上着を、いつの間にか脱いでいた。その為、肩やら、胸元やらが見えている。
「ほら、、上着」
「やだ」
「やだって……」
傍に置いていた上着を渡そうとするが、は拒否を示した。
ここは、無理やりにでも、着せておかないと、自分の理性が危ないと、ベッドに上がり、に近づく。
が、に抱きつかれ、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
「お、おい。?」
「ちょっとは、ドキドキします?」
は、ディーノを見下ろしている。いつもは、自分が見下ろす側だから、新鮮だなと思いつつも、冷静を保つのにいっぱいいっぱいだ。
「ディーノさんは大人で、いつも余裕があって、私ばっかりドキドキしてるから、今度は私がドキドキさせたいなーとかって……」
(ドキドキするよりも、むしろ……)
「だから、ビアンキさんにアドバイスして貰ったんです」
「アドバイス?」
「はい。どうやったらディーノさんをドキドキさせられるかって。そしたら、露出を高めにして、ディーノさんに抱きつけばいいって。で、ちょっとはドキドキしました?」
好きな女にベッドの上に押した倒されて、ドキドキしない男がいたら、お目に掛かりたい。
というか、いい加減退いて欲しい。じゃないと……。
「ドキドキしたから、いい加減退いてくれねーか?」
「本当にドキドキしました?」
「ああ、した、した」
「……絶対してない」
は一向に上から退く気配がない。それどころか、再び抱きついてきた。
これ以上は本当に、自分の理性がヤバい。
「だから、、いい加減に」
「私、十八歳になったんですよ?」
今日は、の誕生日で、晴れて、は十八歳になった。それはディーノだって知っている。
「それに、私だって、もう、何も知らない子供じゃありません」
「……」
は、さらに強く抱きつく。
「そういうことになるかもしれないって、分かってて、ここに来たいって言ったんです」
ディーノはを優しく抱きしめる。少し震えているのは、泣いているからだろうか。
「俺は、まだそういうつもりはないんだ」
「私が、まだ、子供だからですか……」
「それもあるが、それだけじゃねえ」
「じゃあ、なんで?」
は、抱きついていた腕を緩め、顔を上げる。
「のことは、大切にしてーんだ。俺だって男だから、好きな女が欲しいって思う。でも、が卒業するまで待つって決めてんだ」
ディーノはの髪を優しく撫でる。
「、無理に大人にならなくていいんだぜ」
この部屋に来て、が随分と緊張しているのは感じ取れた。精一杯背伸びをしているのは分かっていたのだ。
「ディーノさん……」
は、コテンとディーノの胸にもたれ込む。
「やっぱり、私は子供ですね……」
「そんなことねえって。俺、理性保つの必死だったんだぜ? 子供相手じゃそんなことにはならねーよ」
そうは言うが、は、やはり、ディーノの方が余裕があったように思えてならない。
「じゃあ、卒業までに、もっと女を磨くことにします」
の言葉に、ディーノは少し困ったように笑った。
が卒業するまで待つ、と決めたのはディーノ自身だが、が大人になるのを誰よりも望んでいるのは、ディーノの方かもしれない。
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