甘い搭に負けない甘さ

高校ニ年




『来て、見て、食べて下さい。秋のスウィーツフェア、パフェ祭開催中!』
CMで流れてきた言葉にはふと、耳を傾けた。
近くのファミレスでどうやらパフェ祭をしているらしい。
女の子にとってはこの甘味の魅力は早々避けては通れない。
もチョコレートなど甘いものが好きだ。
そして、このファミレスは、ファミレスにしては中々の味をもち、
そして値段が手頃なことから学生には人気の店なのである。

「…食べたい…」

は小さく呟いた。



「結構歩いたな、何処かで休憩するか?」
「はい」

商店街を恋人であるディーノと一緒に歩いていたは、彼の申し出に頷いた。

「何処行くかなぁ…。
 、行きたい所とかあるか?」
「…あ…」

尋ねられて昨日見たCMがの脳裏に過った。
が、言葉は形にならないまま消える。相手はディーノだ。
友達同士ならそのファミレスに行くことも躊躇いはない。
しかし、ディーノはファミレスなど普段行くのだろうか?
はそこが疑問だった。
イタリアに有るか無いかはこの際、別問題として、
巨大組織のマフィアのボスというのは聞いた。
そんなディーノがファミレスに行くのか?
確かに、これまで公園にやって来る移動型のクレープ屋
などには行ったが、ファミレスには入ったことはない。

?どうした?」
「あ、いえ。何でもないです」

急に顔を覗きこまれては顔を赤くしながら頭を振った。

「行きたいとこあるか?もしくは食べたい物」

ディーノは優しい笑顔で尋ねる。

「…パフェが食べたいです」

はディーノの問いに答える。
そもそも、ファミレス云々というよりは、
昨日のCMで食べたくなったのはあくまでパフェだ。

「パフェか〜…」

少し考える仕種をした後、ポンと手を打った。

「そうだ。パフェ祭やってるってテレビでいってたな。
 ファミレスになっちまうけど、良いか?」
「え…」

ディーノの言葉には僅かに驚いた。
まさかディーノがファミレスを引っ張ってくるとは思ってもみなかったのだ。

「嫌か?」
「そんなことないです!
 私も昨日CM見てパフェ食べたいって思ってたから」

やや眉を下げてディーノに問われ、慌てては否定した。

「なら行こう」

返事を聞くなり笑顔になるとディーノはの手をとって歩きだした。

「それにしても久々だな〜」

「え?」

ディーノの言葉には首を傾げる。

「この仕事やってるとな、どうしても行くとこ行くとこ
 値が張るような高級な所になっちまうんだ。
 だからこういうリーズナブルな所に行くのが久しぶりでさ」

ディーノは楽しそうに笑顔を見せる。

「まぁ、値が張る所っていっても行く相手によって楽しさも変わるけどな。
 とならどんな店行ったって俺は楽しいし、幸せだ」
「…私も、ディーノさんと一緒だと楽しいです」
「可愛いこと言ってくれるな」

そう言うとディーノは繋いでいる手を持ち上げて、の手の甲に軽く口付けをした。
それを見ての体温が僅かに上昇する。
そうこうしているうちに二人はファミレスに着き、禁煙席ということで、
観葉植物がいくつか置かれているソファ席へと通された。
商店街からこっち、行き交う人々はディーノを見ていた。
現に今も、視界に入る店員達はちらちらとこちらを見ているのが分かる。

?」
「え?」

ディーノの声には我に返った。

「どうした?さっきから黙りっぱなしだぞ?」
「ごめんなさい」

メニューを開きながらはディーノに謝った。
気にすることはない。
は自分を勇気づけるように心で思う。
そして自分の左薬指にある指輪を見た。

「ディーノさんってホントにカッコイイですね」
「ん?」

メニューから顔を上げてディーノは首を傾げる。

「すれ違う人達がみんなディーノさんを見てました」
「外国人が珍しいんだろ?」

特に気にする様子もなく彼は答える。

「俺としては…」

言葉を切ってディーノはを見た。

が俺のことをカッコイイって思ってくれるのが一番だけどな」

そう言って太陽のように綺麗に笑う。
が好きなディーノの笑顔だ。
それを見ると自然と口許が弧を描く。

の笑顔は良いな」
「…ありがとうございます」

急に言われてやや顔を赤くしながらは礼を言った。

「なんのパフェにするかなー…」
「色々ありますね」

二人はメニューと睨めっこだ。
暫くして店員を呼び、注文をする。
もちろんディーノが二人分まとめて注文してくれた。
店に入る時も出る時も常に彼が扉を開ける。
レディーファースト。それがとても絵になる。

「おまたせいたしました」

ややしてからパフェが届く。
はチョコレートパフェでディーノはフルーツパフェだ。

「「いただきます」」

声をそろえてスプーンを伸ばす。

「美味しいっ」

の顔に笑顔が咲く。
全体的に甘いパフェをビターベースのチョコレートが程好く
苦味を添えて絶妙なバランスをかもし出していた。

「美味いな」

ディーノも美味しそうにパフェを食べる。
こちらはフルーツの甘味と酸味を殺さないよう、
パフェに使われているクリームやアイスそのものの甘さが抑えられているようだ。



スプーンにパフェとフルーツをバランスよく乗せるとディーノはそれをに向ける。

「お裾分け」
「ありがとうございますっ」

は躊躇いなくスプーンを口に含んだ。

「甘さ控えめで美味しいですねっ」

およそファミレスのパフェとは思えないぐらい味のバランスが整っている。

「俺も良いか?」
「あ、はい」

ディーノが尋ねるとは既にスプーンに乗っていたパフェに
量を追加するべく戻そうと手を引っ込める。

「待った」

そう言うと彼は、スプーンを持つの右手をとった。

「ディーノさん?」

急に手を包まれの心臓がどきりと音を立てる。

「これでいい」

ディーノはスプーンを自分の方に向けるとそのまま一口食べた。

「ん。甘い。けど、美味いな」

笑顔を見せてディーノが感想を述べる。
の心臓は彼のその仕種に未だ速く音を立てている。
何気ない、本当に何気ない仕種の筈なのに、こうも心臓は敏感に反応してしまう。

「…ずるいです」
「え?」

小さく零れたの言葉にディーノは尋ねる。

「何だか私だけドキドキしてるみたいです」
「ははっ。そんなことねーよ」

の言葉にディーノは笑う。

「俺もドキドキしてるさ」
「ホントですか?」

返ってきた言葉には尋ね返す。

といると楽しくてしょーがない」

ディーノはそういうとの左手をとる。
導かれるままは自分の左手の行方を見ていた。

「ホラ、な?」

の手を自分の心臓の辺りまで導くとそこに当てた。
伝わる振動が自分のそれと同じ速度で音を立てているのが分かる。

と同じで俺だってドキドキしてる」
「ホントですね」

ディーノの笑顔につられるようにも笑う。

「っと、パフェが溶けちまうな」
「あぁっ。ホントだ」

二人は慌てて自分のパフェの攻略に挑む。
その後も互いのパフェの食べさせあいをしつつ始終ラヴラヴな光景が見られた。

「美味しかったですね」
「あぁ」

お代はディーノが払い、もちろん店を出る時はディーノがドアを開ける。
あまりに自然に行われるそれはまるで物語に出てくる王子が姫と一緒に歩く様に似ていた。

「さてと、またグルッと歩くか」
「はいっ」

差し出された手を取って二人は仲良く並盛町を散策するのである。


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