素直な想いを素直に伝える難しさ
高校ニ年
「ん。、前髪切ったか?」
ある日、放課後にディーノとデートの約束をしていた時のこと。
門の前でディーノに会った瞬間、開口一番そう言われた。
「あ、はい。ちょっと失敗したんですけど…」
節約のために自分で切ったのだが思っていたようには中々上手く切れないのが世の常だ。
「そんなことねーよ。可愛い」
そう言ってディーノはの前髪に軽くキスをする。
「…ありがとうございます」
は顔を赤くしながら礼を言った。
常日頃からは思うことがあった。
何故イタリア人と日本人では表現が違うのか、と。
「でさ、どう思う?」
「あ?」
と向かい合う様に座っている人物に話を振るとやや機嫌の悪そうな声が返ってきた。
「いや、獄寺なら分かるかなーって」
がそう言うと向かいに座っている獄寺は小さく息を吐いた。
「国が違えば文化も違う。
それだけのことだろーが」
あまり興味がなさそうに答えると、
獄寺は二人の間に開かれたイタリア語の本を見る。
「でも、獄寺はあんまり言わないよね?
可愛いとか好きだとかそういう類の言葉」
「…お前が言いたいのはそれに対してどうすりゃ良いかってことじゃねーのか?」
「う…」
の会話の真意を獄寺が突く。彼の頭の回転は速い。
「確かに日本人はあんまり感情をぶつけねーな。
良い意味でも悪い意味でも」
の解いたテキストにペンでチェックを入れながら獄寺は話す。
「…イタリアにいりゃ女を褒めるのは常識みたいなもんだ」
「そうなんだ…」
テキストに書かれていく赤ペンを目で追いながらは呟いた。
「相手がどうであれ女を立てるのがイタリア人。
日本人から見たら不思議かもな」
「うん。何か、直球だよね」
は小さく答える。
逢うと必ずディーノはの変化に気付く。
髪を切ったこと、アクセサリーが新しいこと、
香水をつけたこと、初めて着た服のこと。
そして可愛い、似合っている。そんな言葉を言う。
もちろん、好きだという言葉も。
直球でぶつかってくる好意が日本人であるからしたら
恥ずかしくてしょうがない。もちろん、良い意味でだ。
嬉しくて、その度に心臓が鳴る。
「そんなイタリア人の攻略法」
「攻略ってお前な…」
の言葉に獄寺がやや苦い顔をする。
攻略も何も既にディーノはに攻略されている。
あんなにも幸せ全開だというのに。
「思った通り口にすりゃ良いだけだろーが」
呆れたように獄寺は答える。
「…難しいこと言うね」
「簡単な攻略法だ」
の言葉を獄寺が切り返す。
「変化球でこねーだけマシだと思え。
直球でくりゃ変に解釈することもない。
お互い変化球で拗れてる奴等とかいるんじゃねーか?」
「…」
のクラス内でのカップルが浮かぶ。
「逆にわざとそれで返してると奴等いそうだけどな」
「…」
言われて浮かぶ別のカップル。
獄寺が言っていたようなカップルは確かに時々拗れているのを見たことがあった。
十人十色とはいわないが、色んな付き合い方があるものだ。
「直球で好意ぶつけられたらそれに対して真っ直ぐ返せば良いんだよ。
下手にグダグダ考えんな」
獄寺はチェックが終わり、赤ペンに蓋をする。
「褒められて嬉しいなら礼言って、言われた言葉に賛同するならそれを返す。
…大分合ってくるようになったな」
テキストをトントンと指で叩いて獄寺が言う。
「獄寺のおかげ。ありがとね」
は素直に礼を言った。
「それで良いんだよ。
別に難しかねーだろ」
「え?」
獄寺の言葉には瞬きをひとつ。
「俺の言葉にお前が礼を返す。そんな感じで良いんだよ」
「…なるほど。獄寺優しいね」
「ウルセー」
フンッと獄寺は顔を逸らす。
はそれを見てクスクスと笑った。
「獄寺君、おまたせー」
「お疲れさまです!10代目!」
「あ、補習終わったんだ。山本は?」
教室に戻ってきたツナをいち早く獄寺が見つける。
補習常連の相方である山本の姿がなくは尋ねた。
「山本はそのまま部活に行ったよ。イタリア語講座は?」
「うん。ちょうど、キリの良いところまでいった」
ツナの質問にが答える。
「、次はその間違い直してくるのと5ページ先までだ」
獄寺がテキストを指差す。
「分かった。頑張る」
「10代目、帰りましょう」
「うん。はどうする?」
「私は先約」
ツナの誘いにヒラヒラとは手を振った。
「それじゃ。、また明日」
「またね」
「…オイ」
「ん?」
獄寺が呼びかける。
「イタリア人は興味ない奴に好意を口にするほど軽かねーぞ」
「え…」
言われた言葉には、やや驚いた顔をした。
「言葉に対してお前が同じなら、そのまま返してやりゃ良いんだよ。
あとは慣れてきゃ良いだけだ。
それだけ口にしてんだ、言われて嫌なわけあるかよ。
あとはテメーの度胸次第」
「…やっぱ獄寺って優しいよね」
「…10代目、帰りましょう」
の言葉に獄寺は眉間に皺を作ったあとツナに声をかけた。
「ありがとう」
「ならそのテキスト完璧にしてこい」
そう言うと獄寺は不思議そうな顔をしているツナと教室を出て行った。
「お待たせしました、ディーノさんっ」
「!」
門の前で会うなりディーノはを抱きしめた。
「今日もは可愛いな」
「…ディーノさんもカッコイイです」
はやや間をあけつつも自分の思いを口にした。
常日頃から思っていることだ。するとディーノは嬉しそうに笑う。
「にそう言われると嬉しい。ますます惚れちまいそうだ」
「…好き、ですか?」
に尋ねられてディーノはやや驚いた顔をした。
非常に珍しいことだからだ。
「が好きだ」
目を見て言われ、の心臓が高鳴る。
いつもなら恥ずかしくて嬉しくて此処で俯いてしまうが、はじっとディーノを見た。
同じ想いならそれをそのまま口にする。
あとは自分の度胸次第。
獄寺に言われたことが頭を反芻する。
「…私も、ディーノさんが好きです」
顔を赤くしつつもそう答えるとディーノの笑顔が一際輝く。
するとディーノは強くを抱きしめた。
「どうしたんだ?急に」
「秘密です」
はクスクスと笑う。
「嬉しくて倒れちまいそうだ」
「それは困ります」
嬉しそうなディーノの顔を見て、も笑みが零れる。
自分の感情を素直に口にするディーノに対して
自分の心臓はドキドキと音を立ててばかりだ。
それでも、今はまだ慣れないけど、自分が気持ちを口にすることで、
こんなにも嬉しそうな笑顔を見せてくれるのであれば、
少しずつ自分の気持ちを伝えることが出来たら良いとは思った。
ディーノが告げる想いと自分が抱いている想いは同じなのだから。
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