誰よりも気になる反応

高校ニ年




「わぁっ」
「へぇ」

朝一番、教室にやってきたの姿を見て、京子と花はそれぞれ感嘆詞を口にした。

ちゃん髪切ってる!」
「バッサリいったわねー」

そして、肩甲骨辺りまであった髪を、肩まで切ったの髪を見て感想を述べる。

「気分転換に切ってみました」

は二人の反応を楽しむように笑って応えた。

「本当に思いきったね」

京子はじっくりとの髪を見る。

「うん、でも可愛いんじゃない?」

花はの髪に軽く触れた。

「似合ってるわよ」
「ありがとう」

は礼を言った。
長い髪をしていると、ふとした時に髪を切りたい衝動に駆られるのだ。
それは飽きに近いものでもある。
そして、その衝動に駆られたは、
部活が休みだった休日を利用してそれを実行したのだ。
もちろん、伸ばしていた髪をバッサリと切るのだから、
美容師の人にも『本当に良いの?』と尋ねられたのは言うまでもない。

、髪切ったんだね」
「随分切ったな」

ツナや獄寺達にも声をかけられ、クラスメイト、部活の仲間達、顧問など、
その日は色んな人に声をかけられ髪を切ったことに驚いたと、
似合っているという言葉をたくさん貰った。



「…」

放課後、は手にしていた携帯を見つめていた。

?」

授業が終わり、荷物を持った花がいつまでも動かない彼女に声をかけた。

「帰らないの?」

気づいていた京子も声をかける。

「あ、うん。帰るけど」

そう言って立ちあがり、は携帯をポケットに仕舞う。

「さては、ディーノさんに髪切ったって言ってないわね?」
「…うん」
「そうなの?」

花の言葉には素直に頷き、京子はやや驚いた声を出す。

「だって…髪長い方が好きかもしれないじゃん」
「そんなことないよ。
 ディーノさんは髪が短くてもちゃんのこと好きだよ!」

なんとも女の子らしい不安を口にしたを京子が鼓舞する。

「で、尚且つ」

花はその光景を見つつ言葉を続ける。

「その雰囲気だと、今日はディーノさんとデートね?」

ニヤリと口の端を上げてそう言った。

「そうなの?」

京子が驚いて尋ねる。

「ディーノさん気に入ってくれるかな…一番反応が気になる…」

不安そうには口にした。

「まぁ、そうでしょうね。彼氏だし?」
「大丈夫だよ、ちゃん。可愛いもん」

頷く花と隣りで鼓舞する京子。

「似合ってるって。フワフワしてて可愛いし」
「そうだよ!ちゃんと私達が保証する!」
「うん…」

は未だ消えない不安を表情に出しつつ頷いた。
女の子の言う可愛いと、男の人の言う可愛いには少なからず差がある。
もちろん、こんなことを言い出したら可愛いの概念が人によって
異なるという話になっていくのはちゃんと分かっているのだが。

「埒が明かないから、さっさとディーノさんに逢いに行けば良いと思うわ」

花はを見ながら言った。

「とにかく、私達は可愛いと思う。あとはディーノさんに聞きなさい。
 私達はディーノさんじゃないんだから」
「花、それ言ったら元も子もないよ」

京子は困ったように言う。

「元も子もないけど、こればっかりはどうしようもないわよ」

花も困ったように京子へ言った。

「沢田達の意見聞いて納得するなら尋ねるけど、そういうものでもないでしょ?」

花は尋ねながらを見た。

「…うん…」

は小さく頷く。
それはそうだ。
どれだけ人に聞いて感想を貰っても、結局それは
その人の意見でしかなくて、ディーノの意見ではない。
自分が最も欲しいのは、ディーノ自身の意見なのだから。

「なら決まり」

花はポンと手を打つと指でドアを示した。

「行きましょ、門」
「そうだね。ディーノさん待ってるよ!」
「…うん…」

中々自信の持てないを連れて教室を出た。


「ディーノさーん!」

花が門の近くに立つ金髪の青年に向かって声を出す。

「よぉ」

それに気づいたディーノが軽く手を挙げる。
は花と京子の後ろに隠れるように歩いていた。
彼女の手は、切った髪を隠すように首に添えられている。

?」
「…ディーノさん」

美代と京に隠れているを見るようにディーノが首を動かすが、
花がそれを遮るように声をかけた。

「ん?」
「…何かこんな当たり前なこと聞くの何なんですけど」

軽く息を吐いて後ろに隠れるを見てから花はディーノを見た。

「ディーノさんって好きですよね?」
「当然。ホントに当り前だな?なんだ、急に」

花の質問にあっさりとディーノは頷く。

「じゃぁ、どんなちゃんも好きですよね?」

京子が心配そうにディーノを見て尋ねる。

「あぁ。はいつだって可愛いし。
 まだ知らないところもあるが、どんなだって俺は好きになるぜ?」

なんとも直球で感情を口にするディーノだ。

「だそうよ?

花はにそう言って、ディーノとの間にある自分の体を横に一歩ずらす。

ちゃん」

京子も花に倣って一歩横にずれる。

?」

首元をずっと押さえている愛しき恋人にディーノは首を傾げた。

「…早く図書室行きたいから、巻きでいくわよ」

花は小さく言うとの手首を掴む。

「さんはいっ!」
「ちょ、花!」

掛け声と共にの制止も華麗にスルーして、花は彼女の腕を降ろさせた。

?!」

ディーノが驚きの声をあげる。

「髪切ったんです。ちゃん。気分転換って」

京子が解説を入れた。

「…もっと良く見せてくれ」

俯いているの顔に両手で触れるとディーノはその顔を上へと向けた。

「…」

花は京子を見た。

「…」

無言のまま花は顎をディーノとは反対方向に振り、京子にその場を離れるよう促す。
京子はゆっくり頷く。それを確認すると花も校舎のほうへと歩き出す。




ディーノは優しく声をかける。
はディーノから目を離すことができなかった。

「髪切ったのか」

片手は頬に触れたままにし、もう一方の手での髪に触れる。

「可愛いな。良く似合ってる」

そう言ってディーノは笑顔を見せた。

「…ホントですか?変じゃないですか?」

はディーノに尋ねる。
先ほどの花と京子の言葉を聞いて気を遣っているのかもしれない。
恋人だから喜ばすために言ってくれているのかもしれない。
そんな不安がの中にある。

「あぁ。ホントだ」

ディーノはそう言うと包み込むようにの体を抱きしめた。

「可愛いぜ。それに、うん。大人びて見える。
 長いのも良いけど、は短くても良いな。
 どっちにしても俺の好きなに変わりはない」

にそう告げると、ディーノは軽く髪にキスを落とした。

「…ディーノさんに、そう言ってもらえると嬉しいです…」

はようやっと自分の気持ちを口にした。
大好きな人にそう言ってもらえた。それはとても嬉しいことだ。

「髪が長いも髪が短いもそれぞれ良い所はあるし。
 それぞれの可愛さがあるからな」

抱きしめる手を解くとディーノは太陽のように笑う。

「嬉しいサプライズだ」

そう続けての手を繋ぐ。

「ディーノさん…」

ドキドキと音を立てる心臓を気にしながらもは、繋ぎ返した。

「さ、デートと洒落込もうぜ」
「…はい…」

楽しそうに笑うディーノに頬を赤くしながらは頷いた。


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