届く。届かない。追いつきたい。追いつけない
高校ニ年
連休を使って、は異国の地に立っていた。
目に見えるもの全てが新鮮で。
目に見える全てが輝いて見えた。
「どうだ?イタリアは」
「素敵です!」
ディーノの言葉には笑顔で答えた。
そう。は今、イタリアに来ているのである。
連休を使ってイタリアに来ることはディーノが誘ったのがきっかけだった。
そして、気がつけば航空チケットがの元に届き、
気がつけばイタリア旅行の日が迫っていた。
宿泊地はもちろんディーノ邸。
そして、やってきたを連れてディーノは自らが統治する町へと連れてきたのだ。
「…」
はグルッと回りの建物を見た。
それらを見るだけで、自然と笑みが零れる。
日本とは異なり、イタリアをはじめとするヨーロッパは伝統を重んじる想いが強い。
石畳から始まり、橋、建物。それらは古からの形を残し、今に残っている。
そして生まれる新しきもの達もそれらと同じような形をし、解け込んでいる。
物語に迷い込んだ。そんな錯覚すら起こる。
そんな地に立ち、歩き回りながらは行き交う人々を見た。
そして、隣りに立つディーノを。
「どうした??」
じっと見られてディーノは尋ねる。
「何でもないです」
は慌てて目を逸らした。
異国の地に立つと、自分は日本人なんだなと改めて思う。
行き交う人達はとても大人びて綺麗に見える。
擦れ違う似たような身長の女の子。制服を着た女の子。
そして、自分よりも背の高い女の人。
人種の違いというのも重々分かっている。
それでも、何だか自分が小さく見えるのだ。
そして不安になるのだ。
17の自分と25のディーノ。
8つ離れているディーノの隣を歩くのが、本当に自分で良いのかどうか。
「ちょっと元気ないか?」
ディーノは首を傾げる。
「あ、いえ。そうじゃなくてっ」
は手を振った。
「なら、どうした?」
ジッとの瞳を覗き込む。
「ん?」
目を見ながらディーノに尋ねられ、は戸惑いながら目を逸らした。
「何と言うか…此処では私が外国人なんだなって思って…」
小さくそう呟いた。
「どうしたんだ?急に」
ディーノは不思議そうな顔をする。
「それは…」
「こんにちは、ディーノ」
「よぉ」
「!」
女の人の声が聞こえ、は目線を戻した。
「最近見かけなかったわね」
「あぁ、日本にちょっとな、後は仕事」
は二人が何を話しているのか分からなかった。
獄寺にイタリア語講座を開いてもらっているので、日本とか、仕事とか
そういった断片的な単語は聞き取れる。
とてもとても綺麗な人だ。
プラチナゴールドの髪に白い肌、そして綺麗な青い瞳。
ディーノと話をしている。それだけで、お似合いだと思う。
「あら?彼女は?」
その人がに気付いた。
「ホームステイ?なわけ、ないわよね」
彼女はをじっと見る。
「!」
の背筋が思わず伸びる。
「あぁ…」
ディーノは笑みを零しての肩に手を添え、引き寄せる。
「わぁっ」
よろけたはディーノの服を掴んだ。
「俺の大切な姫だよ」
そう言っての髪にキスをする。
「姫?」
驚いた声が返ってくる。
その言葉には僅かに胸を痛めた。
自分は、子供っぽいと思われている気がしたからだ。
8つの歳の差。
下手をすれば、兄弟ほど離れている歳で。
その歳の差は、恋人というには、あまりに大きい。
愛があればというけれど、胸を張って言えるほど、自分にはまだ自信がない。
現にこの国には素敵な女の人がたくさんいる。
すれ違う人達がディーノを見ていたし、すれ違う人達が綺麗だった。
「そう。俺の嫁」
「それは…おめでとう!」
「え」
女の人の単語を聞き取りは顔を上げた。
ある程度なら単語は分かる。
オメデトウという単語も獄寺に習った。
「素敵じゃない!」
彼女は綺麗な笑顔をに見せた。
「お似合いよ。二人とも。彼女は、学生?」
「あぁ」
ディーノが頷く。
「失礼、髪に触っても良いかしら?」
その人はに尋ねる。
「髪に触れて良いかって?」
ディーノが日本語に直す。
「え。あ、はい」
戸惑いながらもは頷いた。
「綺麗な黒髪ね」
掌にの束ねた髪を乗せる。
「日本の学校は規則が厳しいのかしら?
彼女、パーマをあてるともっと綺麗になるわよ」
そう言ってディーノを見る。
「ふふ、でも中々手は出せないわね」
「俺の部下みたいなこと言うなよ」
ディーノは苦笑する。
「式には是非呼んで頂戴ね?
町の皆にもお披露目あるんでしょ?当然」
「あぁ」
昔からディーノをよく知る町の人々だ。
正式に発表ができるのをディーノも心から楽しみにしている。
「いけない。私約束あるんだったわ。
この辺で失礼するわね」
「あぁ」
彼女は軽く手を上げるとディーノもそれに応えた。
「また会いましょう。未来の王妃様」
「!」
思わぬ単語には目を丸くした。
「それじゃね」
「あ。Arrivederci」
はイタリア語で彼女にあいさつをした。
すると綺麗な笑顔が返ってきた。
「途中で止まっちまったな。
さっきの続きだけど、なんだったんだ?」
ディーノは自分の胸元にいるに尋ねる。
「…私は…ディーノさんに、似合うのかなって、思ってました…」
「え?」
はディーノの胸に頭を当て、呟く。
彼女の目線は自分とディーノの足元を見ている。
「私は17で、まだ子供で。ディーノさんは25で、大人です。
それに此処には綺麗な人がたくさんいる。
さっきの人だってそうです」
ポツポツと自分の気持ちを口に出した。
「かっこ良いディーノさんに、大人なディーノさんに
追いつくにはどうしたら良いんだろうってずっと思ってました。
私ももっと大人な女の人になりたいなって思ってました。
釣り合うには、どうしたら良いんだろうって思ってました」
ディーノは話を聞きながらの頭に触れた。
「なぁ、」
「はい」
頭を抱えるようにディーノに触れられていて、は頭を上げることが出来ない。
「俺って見る目ないと思うか?」
ディーノは空を見ながら訪ねた。
「え?!そんなことはないと思いますっ!」
ロマーリオや部下たちだでなく、町の人にも慕われている。
そんなディーノに見る目がないとは到底思えない。
は全力で否定した。
「なら、そんな俺が好きになったが何でそんなに落ち込むんだ?」
「?!」
ディーノの一言には目を見開いた。
「見る目のある俺が好きになっただぞ?」
ディーノは頭を撫でていた手を離し、の頬の触れる。
「焦らなくて良いんだよ」
の頬に包むように触れてディーノは上を向かせた。
「綺麗になることも着飾ることも案外簡単にできるんだよ。
けど、今のは今しかいねーからな。
それに、折角一緒にいるんだ。
そんな難しい顔してねーで、笑ってくれよ?」
ディーノは軽くウインクをする。
「笑顔のが一番良い」
そう言っての額に軽くキスをした。
「…はい」
ディーノの言葉には、はにかむ様に笑みを見せた。
「そう、それだ」
の笑顔を見てディーノも太陽の様に笑った。
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