リボーンと話をした

高校三年




「隙だらけだぞ」
「っ!」

突然聞こえた声にディーノは思わず飛び退き鞭を構える。

「なんだ、リボーンか…」

ふぅっと息を吐いてディーノは鞭を仕舞った。

「なんだとはなんだ」
「はは。悪ぃ」

苦笑するディーノを見ながらリボーンはひょいとフェンスの上に座った。
今、彼等がいるのは並高の屋上だ。

待ちか?」
「あぁ。今ごろ勉学に勤しんでるぜ」

リボーンの言葉に答えながらディーノは愛おしそうに
彼女がいるであろう教室に目を向ける。
部活を引退した高三生は受験勉強真っ只中だ。
類に漏れることなく、ディーノの恋人、もその一人だ。

「それはそうと、お前とんでもないこと考えてるだろ?」
「何のことだよ?」

ディーノは軽く首を傾げた。

「とぼけんな。俺の情報網ナメてるのか?」

チャキっとリボーンは銃を構える。

「分かった分かった!考えてるよ!確かに!」

向けられた銃に手を振りながらディーノはあっさりと白旗を振った。
幼き頃に染みついた上下関係は何年経っても変わらない。

「卒業式にを攫って、イタリアで式を挙げる」

真剣な目つきディーノは答える。

「やーい。この人攫い」
「人聞きの悪いこと言うなよっ!」

リボーンに茶化され、ディーノは怒った。

「けど、実際には何一つ話してねーんだろ?」
「あぁ。驚かせたいっていうのもあるし、ホントはな、少し不安なんだ」

弱気な表情をしならがディーノは呟いた。

「断わられることか?」
「いや。それはないだろうなってのは思ってる」

リボーンの言葉にディーノは頭を振った。

の未来予想図、壊しちまうのかなって思ってさ…」
「攫って挙式考えてる奴が何言ってんだ」
「ははっ。それを言われたら元もこもねーんだけど」

鋭いツッコミに苦笑いが零れる。

「そうは言っても、はああやって目標があって懸命に今受験勉強してるだろ?
 やりたいことがあって、必死に勉強してるのに俺が攫っちまって良いのかなってさ…」

フェンスに凭れているディーノの髪を風が優しく撫でる。

「結婚前提で確かに付き合ってるけど、俺と一緒になる以上、は日本を離れなきゃならない…。
 けど、我慢できない俺の感情もあるんだ。早くを皆に紹介したいって」
「…」

リボーンは黙って自分の元教え子であるディーノを見る。

「何より、俺がずっとの傍にいたいんだよ…。
 我が侭、なんだろうな…」
「あぁ。我が侭だな」
「厳しい言葉だな」

分かってはいるが肯定されてディーノは苦笑いしか出来ない。

「だが…」

続くリボーンの言葉にディーノは顔を向けた。

「あくまでの意思がそこになかったらの話だけどな」
「…」

そう続けてリボーンは軽く口の端を上げる。

「お前はマフィアのことを話したんだ。それでもそれを受け入れた。
 その時点でお前達に後戻りなんて存在しねーんだ」

どこか楽しそうにリボーンは話す。

「後戻りが出来ない、か」

噛み締めるようにディーノは口にする。
自分の立場、自分の想い、の立場、の想い。
二人で決めた事実だとしても、正しいかどうかは誰にも分からない。
あるのはただ、後悔はないという事実だけ。
例えそれが、自分の我侭だと言われたとしても、
を、日本から離すことになったとしても。
不安はあっても、後悔はない。

が今ああやって勉強してる先にお前がいるんだ」
「…え…?」

リボーンの言葉に驚いてディーノは彼を見る。

「間抜けな面だな」

元教え子を見てリボーンは笑う。

「進路の話を聞いた」

目をディーノから空に向けてリボーンは話す。

はイタリアに留学出来る大学ってのを探したらしいぞ。
 まぁ、結果としてとりあえず並大って話になったらしいけどな。
 分かるだろ?」

リボーンは空を見たまま言葉を続けた。

「単なる留学じゃねぇ、イタリアっていう確固たる目的地がある理由が。
 なんでがイタリアに留学したいのか」
「…まさか…」

自分の考えが本当に正しいかどうか分からないディーノは解答を求めるようにリボーンを見る。

「イタリアにはどっかのへなちょこがいるからだろ?」

そう言ってようやくリボーンはディーノを見た。

「ホントか?!それ!!」
「俺の情報網が正しければな」

リボーンの言葉にディーノは至極嬉しそうな顔をした。
彼の情報網に偽りなどない。なんといってもマフィア界最強の称号を持つ者なのだ。

「お前が思ってる以上にはお前に近づきたいって思ってるのかもな」
「……」

ディーノは愛しき恋人の名を口にする。

「イタリア語勉強してるのもイタリア留学考えてるのもな」
「そんなを俺は大事にしねーとな…」

幸せを噛み締めるように呟く。

「まぁ、どっちにしてもお前は卒業式に人攫いの称号を得るけどな」
「そういう言い方やめろよ!」
「事実じゃねーか」

慌てるディーノにリボーンは切り返す。とても楽しそうだ。

「…お前達の心配なんか俺はしてねーぞ。するつもりもねぇしな」
「何でだよ」

やや不貞腐れながらディーノは彼の言葉を待った。

「心配するわけねーだろ。お前の家庭教師はこの俺だぞ?」
「ははっ!確かにな!
 リボーンがいなきゃ今の俺はいないんだ」

ディーノは笑って昔を懐かしむようにリボーンを見る。

「…おまえもまだまだへなちょこだな」
「なっ!どういう意味だよ!」
「そのままだ」

リボーンの言葉にディーノは意図が分からず尋ねるが、その答えは返ってこない。

キーンコーンカーンコーン

学校中に終業の鐘が鳴り響く。

「さっさと迎えに行け」
「いてっ!!」

リボーンは飛び上がりディーノにひと蹴り入れると見事着地した。

「…じゃぁな、リボーン。ツナによろしくな」
「あぁ」

リボーンに手を振るとディーノは走り出した。

「…やれやれ。俺の副音声も分からねーようじゃ、まだまだへなちょこだな」

リボーンは青く広がる空を見上げる。


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