込められた想い
高校一年
校庭の桜が空の青と鮮やかに溶け合う季節、
この時期は様々な場所で新たな始まりを迎えていた。
そして、それはここ並盛高校でも。
が割り振られたクラスにはツナを始め、
中学の時からつるんでいるメンバーが勢揃いしていた。
「ここにもやっぱり風紀委員があるんだよね」
腐れ縁だのと話をしている中、ツナが生徒手帳を見ながら呟いた。
「雲雀のやろー、10代目を差し置いて組織を作るとは…」
獄寺の眉間の皺が濃くなる。
「まーまー良いじゃねーか。雲雀もかわらねーみたいだし」
ははっと陽気に山本が笑う。
皆が入学した並高でも風紀委員長雲雀恭弥は健在で、既に学校を裏で支配しているようだ。
それが証拠に入学式で歌われた校歌には並中のそれを彷彿とさせるほど
完成度が高く気合の入ったものだった。
「それにしても、山本が並高来るとはね」
花の言葉に皆が山本を見る。
野球部で活躍していた山本には様々な高校からオファーが来ていた。
それらを全て蹴って波高に入学したのだ。
並高も決して弱い高校ではない。
ましてや風紀委員長雲雀恭弥が支配してからはその実力は格段に上がっている。
「当然、ここでも野球やるぜ」
「野球推薦で入った奴がやらなかったらただの馬鹿だろーが」
山本の発言に獄寺が切り捨てる。
「まぁまぁ、獄寺君。
皆は部活とか決まってるの?」
ツナが周りを見る。
「当然、吹奏楽。死ぬ気で校歌演奏するよ」
笑いながらが答える。
「中学と一緒なんだ。京子ちゃん達は?」
「私は決めてないなぁ。花は図書委員希望なんだよね」
「そう。中学じゃできなかったからねー」
「そろそろ席着けー」
ザワつく教室に担任が入って来た。
集まっていた面々はそれぞれ自分達の席へと戻る。
「…ん」
のポケットの中で携帯電話が小さく震えた。
メールの着信を知らせたのだ。
携帯を開いてその差し出し人と文面を見る。
「…わ…」
の表情が笑みを帯びる。差出人はディーノだ。文章は短い。
『入学、おめでとう。終わる頃学校に行く。
その後、いつもの公園に来てくれ。待ってるから。』
たったそれだけの文面だがは嬉しくてたまらなかった。
想いを寄せる相手が今、日本にいる。
当然ツナの入学を祝う為に来たことは重々承知だが、
それでも中学二年のあの時以来、度々ディーノはとの時間を作ってくれていた。
繋がりを絶ちたくないと言ったのはディーノからだ、
それでもそこに込められた想いをは計りかねていた。
ディーノとの歳の差は8つある。
そんな大人なディーノが自分と何処かに出かけたり度々逢ってくれるのが不思議でならなかった。
勿論、それを本人に聞いたことはない。
聞く勇気が、ないのだ。
それでも嬉しくて、は手早く返信を打った。
「よぉーツナ!入学おめでとう!皆もな!」
「ディーノさん!」
高校初日を無事終えると、正門の近くでディーノが待っていた。
金髪のイタリア人に黒スーツのロマーリオそして路肩にはフェラーリ。
その様子はあまりにも目立つ。だが、本人達はお構いなしだ。
「はえーなっ。もう高校かー」
ツナ達と会話をしながら、ふとディーノはに目線を送る。
その目は優しさに満ちていた。そんなディーノの表情がはとても好きだった。
それから暫くディーノと皆で話をした。
「ボス、時間だぜ」
ロマーリオが時計を見ながら声をかける。
「そか。じゃぁツナ、また後で家に行くぜ。
リボーンにもよろしく言っといてくれ」
「あ、はい」
ツナが手を振るとディーノも手を上げ車へと乗り込んだ。
そして轟音と共にフェラーリは並盛町へ消えていった。
「俺は騙されねーぞ」
「うわっ!」
皆で見送っていると突然リボーンが現れた。
「騙されるって何のことだよりボーン」
「俺がディーノの家庭教師だからだ」
「わけ分かんないよ!」
リボーンの返答にツナがツッコミを入れる。
「さっさと帰るぞ」
ひょいっとリボーンは、さも当然のようにツナの肩に乗った。
「じゃ、、また明日」
「うんー。またねー」
帰り道の分岐点でいつものように手を振る。
友人が背を向け歩き出したのを確認して、はもと来た道を走って戻った。
並盛公園は二人の分岐点よりも学校の近くにある。
今のは一分一秒でも早く公園へと向かいたいのだ。
「あった!」
公園の近くにフェラーリが停まっている。
先ほど見たディーノの車だ。
「ディーノさん!」
「」
公園のベンチに座る想い人を見つけては思わず名前を呼んだ。
ディーノもそれに気づき立ちあがる。
「遅くなってすみませんっ」
「そんな息切らして走ってきてくれたのか」
ディーノはの頬に指で触れた。その行動に思わずの体が震える。
イタリア人のみならず海外の人達は日本人に比べ、よく行動にでる。
だから、日本人であるは自分の頬に触れるディーノの想いが分からなかった。
きっと自分の頬は今熱いだろう。それが走ってきたからなのか、
ディーノが触れているからなのかはいえないが。
「、入学おめでとう」
「ありがとうございます!」
笑顔で祝福され、も笑みが零れる。
「に、入学祝を持ってきたんだ」
「え?」
ディーノはポケットの中から小さい紙袋を取り出した。
「受け取ってくれ」
差し出されたそれをは大事そうに受け取る。
重さはとても軽い。
「開けても良いですか?」
「勿論」
慎重に封を開け、掌にそれを滑り出す。
「…わぁ…」
掌へ零れたのはチェーンに通された指輪だ。
「ホントは指につけて欲しいんだけどな。
校則が分からねーから」
ディーノは照れくさそうに笑う。
「凄く、可愛いです!」
は一目見て気に入った。
「それは良かった。ちょっと貸してくれ」
指輪のネックレスを受け取るとディーノは
止め具を外しの首元へもっていった。
「あの、ディーノさん?」
「じっとして」
耳に息がかかるほどディーノは近づいての首にそれを着けた。
その間、の心臓は五月蝿いほどに音を立てていた。
「首ん所外してもらっていいか?」
「…あ、はい…」
きちんと止め終わると自分のシャツの首元を指で指してディーノが言う。
は制服のリボンをのけ、第一ボタンを外した。
そうすると丁度鎖骨の辺りに指輪が見える。
「うん。似合ってる」
ディーノは満足そうに頷いた。
は先ほどの緊張を引きずっているせいか中々ディーノの顔を見られないでいた。
「、これから少し暇か?」
「はいっ」
デイーノの言葉には強く頷く。
「夜はツナん所行こうと思ってるからそれまで、俺と何処か行かないか?」
軽く首を傾げてディーノが問う。
「大丈夫です!」
は笑顔で答えた。
「じゃぁ、決まりだな。街中歩くか」
「あ、でも私制服ですよ」
折角ディーノと歩くならもっとお洒落をしたい。はそう思った。
好きな人の前では可愛くいたいのだ。
「は制服も可愛いよ」
そう言ってディーノは優しくの頬に触れた。
「それに待ってる時間が勿体ない」
私服のも当然好きだが、それを見るには待っていなくてはならない。
折角久しぶりに逢えたのだ、待つよりも一緒にいる時間
を少しでも長くしたいとディーノは思っていた。
「…分かりました…」
再び顔を赤くしては頷いた。
車を他の部下に任せて二人は並盛商店街を歩く。
行き交う人々はディーノとすれ違うたびに振り返っていた。
そんな町の人の視線を肌で感じながらは改めてディーノの、かっこよさを実感する。
そして、自分と一緒に歩いているディーノを
誇らしく思うと同時に、何となく小さな寂しさを感じていた。
今、彼の隣を歩くのが本当に自分で良いのか、と。
彼の妻でもなければ恋人でもない。
はまだディーノの友達でしかないのだ。
「どうした?、さっきからボーッとして。楽しくないか?」
「そんなことないです!」
心配そうな顔をしてディーノが顔を覗き込む。は慌てて否定した。
「何かあるなら言えよ?」
ディーノはそう言って笑う。
「いえ、ただ…」
「ただ?」
は小さく言葉を繋いだ。
「ディーノさんと一緒にいるのが私で良いのかなと」
最後のほうは最早言葉が消えていた。
こんなことを言っても彼は否定するだろう。
とても優しい人だから。
それでも、今思っているとても純粋な気持ちだ。
「なんだそんなこと気にしてたのか」
ディーノは軽く答える。
「え?」
「だから俺は声をかけるし、だから俺は誘うんだ」
彼の言葉にの心臓が鳴った。
「ディーノさん…」
「それに」
言葉を切ってディーノは自分の首元をトントンと2回指で叩く。
「だから入学祝をあげたんだ」
そう続けて、とても綺麗な笑顔を見せた。
「だから自信もってくれよ」
「…はい…」
ディーノの言葉に赤くなりながらは頷いた。
その後も二人は商店街を歩きラ・ナミモリーヌでティータイムも楽しんだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「っと…そろそろ時間か」
腕にしている時計を見てディーノが呟く。それを聞いてはとても残念な気持ちだ。
「、家まで送っていくぜ」
「あ、はい。ありがとうございます」
いつのまにか停まっていたフェラーリに二人は乗り、帰路に着く。
「、また、逢ってくれるか?」
車から降りたを見ながらディーノは話しかけた。
「もちろんですっ」
ディーノの申し出に精一杯の笑顔で答える。
「が携帯持ったからな、これからはそっちに連絡する」
「はい」
高校に上がっては携帯を持った。
前まではパソコンでメールのやり取りをしていたが、これからは携帯でそれができる。
いち早く、ディーノの来日を知ることができるのだ。
「日本に来ること以外にも連絡するよ」
「…え…」
ディーノの言葉には目を丸くした。
「時間があったら返信くれ」
「そんな!絶対返します!」
は力強く頷いた。今まで来日の連絡しかやり取りがなかったのに、
それ以外のやり取りが増えるのだ。逢えないにとっては嬉しい限りだ。
「それじゃ、またな」
軽く手を上げてディーノを乗せたフェラーリは走り去っていった。
はポケットに入っている携帯をキュッと握り締めた。
「あのさ、獄寺」
「何だよ?」
次の日の休み時間、珍しくは廊下にいた獄寺に話しかけた。
「獄寺ってイタリア出身だよね」
「だったら何だよ?」
眉間に皺を作りながら獄寺が答える。
「…イタリア人って指輪贈る時何考えてるんだろう…」
の言葉に獄寺が眉を動かす。
「あぁ?そんなの…本人に聞けば良いだろうが」
何かを感じたのか獄寺は途中で間を置くと彼女の言葉を切り捨てた。
「聞けたら聞いてないよ!聞けないから獄寺に聞いてるんじゃん」
その間には気づかず食って掛かる。
「…そいつは何て言ったんだよ、それ渡す時」
彼女の目は真剣そのものだ。
それを見て仕方なく獄寺はの話に付き合った。
「…入学祝…」
獄寺は頭の中で浮かんでいる、金髪の贈り主に舌打ちをした。
「…なら入学祝で良いんじゃねーのか?何か不満があるのかよ」
「いや、ないけど…でも…」
獄寺は苛ついた表情をしている。
それはに対して、というよりはその指輪を送った金髪の青年に対してだ。
「ちっ…めんどくせぇ言い回ししやがって…」
「え?何?」
獄寺の呟きには首を傾げる。
「なんでもねぇよ。とにかくそれで良いじゃねーか。
他に意味があるならディーノのことだ、時期が来たら話すだろっ」
「え、ちょ、獄で…」
「あれ?、こんなことで何してるの?」
男子トイレから姿を見せたツナが珍しい組み合わせに尋ねた。
「10代目!話は終わってるんでさっさと行きましょう」
獄寺がツナの背中を押す。
「え、でも…良いの??」
「…うん」
ツナの言葉に小さくは頷いた。
実際話の続きをしようとしても、獄寺からはこれ以上情報をもらえないだろう。
そんなことよりも気になっていることがにはあった。
「…何でディーノさんからって分かったんだろう…」
確かにイタリア人とは言ったがディーノとは一言も言っていない。
「まぁ、良いか。うーん…でもなぁ…」
結局が求めていた答えは得られなかった。
やはり入学祝として貰っておくしかないのだろうか…。
と、は制服の上から送られた指輪に触れた。
彼女が贈られた指輪の真意を知るのはもう少し後の話。
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