手に入れた想いはいつだって自分の誇り

高校二年




「恭弥っ!!」

強いノックの後、主の返事を待つことなく、応接室の扉が勢いよく開くいた。

「許可した覚えはないけど」

書類に向けていた顔を上げた雲雀はやや呆れた顔で、
入って来たイタリア人、ディーノを見る。

「そう堅いこと言うなって」

ディーノは至極嬉しそうな顔で雲雀に近づく。

「久々に会いにきたんだぜ?」
「…先週も来たように思うけど。よほど暇なんだね」

渡される手土産を受け取りながら雲雀が言う。

「忙しいのは変わらないけどな、今日は必死で仕事片付けてきた」

そういうディーノは先ほどから笑顔のままだ。

「何かあったの?」

聞きたくもないがどうせ前回と同じような展開になるのは分かっていたので、雲雀は尋ねる。

「よく聞いてくれた!ついにと婚約を果たした!」

ディーノはVサインをして雲雀に宣言する。

「…」

彼の発言に雲雀の思考は一瞬止まった。
つい先日並高で文化祭があった。
その終盤、ディーノとと一緒に部下も混ざって話しているのを目撃した。
右腕であるロマーリオが加わることはこれまでにもあったが、
今回話している人数は、はるかに多かった。
それ故に、文化祭で何かあったのだろうとは思っていたが、
まさか婚約という単語が出てくるとは思ってもいなかったのだ。

「いきなり飛んだね」

雲雀は、ようやっとその一言を言った。

「付き合うからには必然とマフィアの話をしなきゃならない…。
 それに俺は言っただろ?一生傍にいて欲しいのがだって」

誇らしげにディーノは笑う。

「そう。じゃぁ、がそれを受けたんだね」

雲雀はもらった和菓子を持って席を立つ。

「すっっっげー可愛かったっ…」

感情をじっくり込めてディーノは言う。

「ホントに可愛かったんだぜ?!
 恭弥にも見せてやりたかったなぁ…」

その時のの表情を思い出したのか、ディーノは力説する。

「行事は何かと色んなことが起こりますね」

草壁がそう言いながら湯呑を二人分、机の上に置いた。

達のクラスの模擬店との吹奏楽部の演奏見たか?」

その前置きから始まった話に雲雀はややウンザリした表情になる。
今日のこの並べられる言葉は紛れもなくノロケなんだろうなと思った。

「…そのノロケいつまで続くの」

和菓子を食べながら雲雀が尋ねる。

「ん?の部活が終わるまで」

笑顔でディーノは答えた。

「…」

止めるのも面倒になって雲雀は小さく溜め息を吐いた。

「けど、驚いたんだぜ」

ディーノの言葉に雲雀は顔を上げる。

「マフィアなんて聞いたら普通思い浮かぶことなんて良いイメージじゃねーだろ?
 麻薬とか縄張り争いとか武器とか暴力、時には殺人ってな」
「だろうね」

古今東西、心優しきマフィアが映像化されることなどほとんどないだろう。
マフィアは闇の組織で、下手をしたら悪の組織だ。

「それなのにさ、は受け入れてくれた」
「実感沸かなさすぎてイメージできなかったんじゃないの?」

雲雀があっさりと言う。

「それは、まぁな。日常でマフィアなんて言われても遠い存在だ」

ディーノは苦笑する。

「それでも、は一緒にいたいって言ってくれたんだ。
 俺達キャバッローネの業を背負わせてくれって、言ってくれたんだ…。
 それが俺にはたまらなく嬉しい」

そう続けて彼は幸せそうに笑った。

「俺だけじゃないんだ。俺の部下のことも、ちゃんと想ってくれてる。
 危険な目に遇うことだってあるのにな」
「変なタイミングで言ったもんだね」

雲雀は率直な感想を述べた。

「あぁ。それな」

言われてディーノが笑う。

「ホントはちゃんと待とうと思ったんだ。
 いきなりマフィアのボスに告白されるんだぜ?感情も、仕事も。
 だからさ、高校卒業まではーって思ってたんだけどな。結局我慢できなかった。
 俺の為に指定席の券くれたり、俺の為に笑ってくれたり、
 俺の言葉ひとつでくるくる表情変えてくれたり。時々見せる強い意思を帯びた目とか。
 入学式に渡した指輪もちゃんと首から下げてくれてるし。
 それ見てたら全部が愛おしくて大切で。そんな、誰にも譲りたくねぇって思っちまった」

ははっとディーノは照れた様に笑う。

「それで婚約まで話が飛んだの?」
「いや、それは前々から思ってたこと」

雲雀の言葉をディーノは否定する。

「自分とにとってマフィアってのが一番の隠し事で、一番の壁だ。
 これを言うからには俺もそれ相応の覚悟がいると思ってな。
 自分の感情伝える時には、婚約も言っちまおうって決めてた。
 そうじゃねぇと、全力で守れない」

彼はマフィアのボスだ。
その彼が一人の恋人のためだけに人員を割くわけにはいかない。
そして、いつ如何なる時にキャバッローネの情報が漏洩するかも分からない。
どんなに優しさを掲げても、マフィアであることに変わりはない。
組織を守る為に、やらなくてはならないこともある。

「だから、を好きになってと一緒にいる時から決めてたんだ」
「断わられる可能性は考えなかったわけ?」
「何でかな…その考えは、なかったな」

雲雀の問いかけにディーノは笑う。

「人間ってのはそういうのが働く時があるんだよ。多分。土壇場じゃ特にな」
「ふぅん」

頷きながら雲雀は和菓子に手を伸ばす。

「それで、今日はその嫁予定の嬢ちゃんと出掛けるんだよな、ボス」

ロマーリオがグッと親指をたてて話に加わる。

「そう!!その為に俺は仕事片付けてきたんだよ」

ディーノが強く頷く。

「正真正銘デートだっ。一味違ったデートになりそうだなぁ…」

ディーノはとても楽しそうだ。

「楽しそうでなによりだね」

雲雀は半ば呆れながら小さく感想を述べた。

「なぁ、行ったら良い店とかないか?並盛は恭弥の庭だろ?」
「…五月蝿いよ。そんなの自分で調べたら?」

フンッと愛想なく雲雀は答える。

「けどまぁ、何処行ったってと一緒で、の表情を近くで見られる。
 そんで、のことたくさん愛せたらそれで良いかっ」
「…」

次々と出てくる甘い言葉に雲雀は何とも言えない表情をした。
国籍が違い、住んでいる所が違うだけで、こうも人間というものは表現の差が出るのだろうかと。

「どうでもいいけど時間、良いの?」

そう言って時計を指差す。

「おっと!いけねっ!いかねーと。
 待たせるわけにはいかないからな」

ディーノは慌てて立ち上がる。

「じゃぁな、恭弥。今度は相手してやるぜ」

そう言って軽く手を挙げと、足早に応接室を出て行った。


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