浮気?

高校三年




「浮かれてるわね」
「そうだね」

 花と京子は、クラスイト達と話をしているを見て、そう呟いた。

「しかも、花飛ばしてるわ」
「今日は、ディーノさんとデートかなぁ」

 朝から、は若干浮かれているように見えた。というか、実際浮かれているのだろう。始終嬉しそうで、機嫌がいい。

「でも、ディーノさんとは昨日会うって言ってたと思うんだけど」

 が花を飛ばすのは、大体が、恋人であるディーノ関係だ。彼が来日する日は、やはり嬉しそうだ。会えることを原動力に、授業を受けているような節もある。
 ということは、まだディーノは日本にいるのかもしれない。そして、今日も今日とて、デートだから、あんな風に浮かれているのだろう。
 そう二人は結論付けた。
 しかし、聞こえてきた会話によって、その予想は覆される。
 嬉しそうだね? というクラスメイトの言葉に、は驚いた顔をする。

「え? 何で?」

 朝から浮かれっぱなしだともう一人のクラスメイトに指摘される。

「まあ、確かに浮かれてたといえば、浮かれてた、か」

 は今日一日の自分の行動を思い返す。
 彼氏とデートかという言葉に、ディーノはもうイタリアに帰国したと答える
 その一言に、花と京子も反応する。
 ディーノが帰ったということは、今日は、ディーノとデートではないということだ。
 だとしたら、のこの浮かれっぷりはなんなのだろう。

「じゃあ、。あんた、何で、そんなに浮かれてるのよ?」

 花と京子は、達の会話に加わる。

「何でって……そりゃ……。大好きな人の声が聞けるからに決まってるじゃん!」

 そう答えたは、声は高くなり、花を飛ばし、心なしかピンクのオーラも出ている気がした。  付け加えると、両手のひらを合わせ、首を傾げる様は、恋する女の子だなぁと、ほのぼのせずには居られない。

「じゃあ、今日、ディーノさんから電話がくるんだね?」

 京子の質問も最もだ。の大好きな人といえば、ディーノ。そのディーノはイタリア。とすると、声が聞けるといえば、電話くらいだ。

「違うよ。時差があるから、電話は滅多にしないし」
「でも、あんた今大好きな人って」
「うん、だからそれは……って、ああ」

 そこまで言って、は言葉を止めた。そして、納得したような表情のあと、何かを思いついたような表情になる。

「だから、うん、大好きな人の声がきけるから浮かれてたわけですよ」
「で、でも、ディーノさんと付き合ってるんだよね?」
「うん、付き合ってるよ」
「でも、大好きな人ってディーノさんのことじゃないよね?」
「違うねー」

 京子とが話し始め、花は傍観に回った。
 が浮気をするような子でないことは、花たちが一番知っていることだが。

「って、ことで、今日は、部活もないし、放課後は速攻帰りますので」

 早々に会話を打ち切り、は自分の席に戻る。足取り軽く。



 HRも終わり、は自分の鞄を取って、誰とも無駄話をすることもなく教室を出る。
 は足取り軽く商店街を進む。
 彼女の後ろを付ける人影が4つ。

「十代目、どうして俺たちをつけてるんですか?」
「それが……」

 ため息を吐きながら、ツナは前方の女子二人をみる。前方にいるのは、花と京子。
 二人はが浮かれている原因を見極めようというのだ。
 浮気をするような子ではないが、もし、変な男に騙されているのなら、止めるのも友達の役目だ。つけていることをに怒られるかもしれないが、いざという時は、出て行くつもりもある。
 それをどこで聞きつけたのか、リーボンに二人の護衛をしろと命じられた。
 が浮気してるかもしれない。それを二人が止めようとしている。相手はどんな奴か分からないから、いざという時は護れと。
 気はすすまないが、みすみす京子を危険にさらすわけにはいかないと、付き合っている次第だ。

「あ、ちゃんがお店に入った!」
「行くわよ」

 が入っていったのは、並盛商店街のCDショップ。
 ここで待ち合わせ、もしくは、ここでバイトしている人だろうか。
 カウンターにいるのは、女性店員で、まさか彼女がということはないだろう。
 カウンターで何かを受け取り、支払をしているところをみると、ここには、CDを買うために寄っただけらしい。
 がCDショップを出る。それに続いて、ツナ達も出る。
 しかし、数歩あるいたところで、はくるりと後ろを向いた。

「ばれてますからねー。そこの4人」
「あら、気づいてたのね」
「バレバレだから」
「上手くできてると思ってたのにね。すごいねちゃん」

 花、京子はあっさり出てきて、を会話をしている。が怒っている様子がないからとツナと獄寺も出て行く。

「ツナと獄寺までいるとは思わなかったわ」
「ははは…………」
「で、が浮かれてた原因の人はこの後会うの?」
「ああ、これが、浮かれてた正体ね」

 は、袋から、一枚のCDを取り出した。
 何の変哲もない、普通のCDだ。CDジャケットに写っているのは確かにカッコいい男性ではあるが。

「ずーっと待ってたんだよね。バンドは事実上の解散だし。ずっと、CD出してなかったし。発売するって聞いて、すっごい楽しみにしてたわけ」

 ツナはそれを聞いて脱力する。もし修羅場になったらと気をもんでいたのに、真相はこんなものだ。
 女子三人は既に話に花を咲かせていて、今までのことなどなかったかのようだ。
 三人が話しているとの電話が鳴った。

「えっ! ディーノさんっ!?」

 は慌てて電話にでる。

「もしもし、ディーノさん?」
か?』
「はい。どうしたんですか?」
『さっきまで仕事しててさ。』
「あまり無理しないでくださいね」
『ああ、もう寝るつもりだったんだが、気になることがあって、寝られなくてな』
「お仕事大変なんですか?」
『いや、仕事のことじゃねえ』
「じゃあ」
『さっき、メールがあって……それで、その……』

 そこでピンときた。これがの自惚れでなければ、だが。

「私が浮気してるって、言われました?」
『えっ! なんで、それをっ!』
「さっき、皆とその話してましたから」
『それじゃあっ』
「してませんよ。するわけないじゃないですか」
『…………だよなー……』
「他の人にときめいてたのは、本当ですけど」
『えっ!』
「って、言っても、芸能人ですよ。好きな歌手の人が、新しいアルバムだしたからです」
『ああ、歌手か……』
「そのことで、誤解されるような話し方をしちゃったので。ツナが勘違いしたんだと思いますよ」
『メールはツナからじゃなくて……』
「どうかしました?」

 ディーノの声が小さくてあまりよく聞こえなかった。

『いや、なんでもない』
「まさかディーノさんのところまで話がいっちゃうとは思ってなかったですけど、ちょっとはヤキモチやいたりとか……」
『ちょっとどころじゃないな』
「え」
『すっげー慌てたし、今すぐそっちに行って攫おうかと思った』
「あの、えっと……」

 傍にはいないのに、電話だから耳元で囁かれてるようで、は朱くなる。

「だ、大丈夫です。ディーノさんが一番好きですから!」

 大好きな人の声が聞けるから浮かれる。今朝の会話はディーノのことを言ったわけではないが、本当に大好きな人の声を聴くことができた。
 慌てさせてしまったディーノや友人たちには悪いが、誤解されてよかったとも思う。

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