こんな所に接点があったなんて思ってもみなかった
中学二年
「でね、ランボ君の退院のお祝があるんだって!
今日の夜に山本君の家だって」
「楽しみですね!」
「退院祝いにしては豪勢すぎる気もするけど…」
昼間、休日を利用して京子達と商店街を歩いていると話が持ちかけられた。
「あとね、相撲大会も優勝したんだって」
京子が楽しそうに笑う。
「さすがツナさん達です!いっぱいお祝いしたいですね!」
ハルも京子と一緒に、とても嬉しそうだ。
「あれってホントに相撲大会なの…?」
花が苦そうな表情をする。
「相撲大会…。そういや、見てないな…。話には聞いてたけど」
が首を捻る。
「でも、勝ったんだったらお祝いしないと!
話は後でも聞けるんだし!」
友人が明るく2人に言った。
「とりあえず、今晩楽しみましょうか!」
「「「「おー!」」」」
「「「「「「こんばんはー」」」」」」
「へいらっしゃい!」
竹寿司の扉を開けると店主が元気良く迎えてくれた。
「お!皆一緒だったのか」
「準備手伝え!」
「極限に加勢しろ!」
ランボの退院祝いの会場設定をするため早めに来ていた獄寺と了平に促され
各々自分に出来る作業を手伝い始めた。
「笹川先輩、手大丈夫なんですか?」
友人が了平の右手に巻きつけられているギブスを見て尋ねる。
「あぁ、極限に問題ない。完治も近いと医者が言っていたからな」
「利き腕怪我したって京子ちゃんが言ってたから心配してたんですよ」
が会話に参加する。
「心配性だからな、京子は」
了平は笑いながら京子を見る。
「だって相撲大会があんなに凄いとは思わなかったから…」
「いや、目の前でここまで怪我されたらそりゃ驚くよ」
友人は了平の右手に巻かれたギブスをマジマジと見ながら呟いた。
「おい!お前等動け!
10代目が来るのに間に合わないだろうが!!」
獄寺に怒鳴られて再び皆は作業に戻った。
ガラッ
「「「こんばんはー」」」
会場が整ったぐらいに次の客がやってきた。
「へいらっしゃい!」
「なんだぁ?ビアンキは来てねーのか?」
「拙者もお邪魔して良かったのでしょうか?」
「何言ってんだよ、バジル。
お前だってツナの修行の手伝いしてたんだろ?」
姿を現したのはシャマル、バジル、そして…
「ディーノさん!」
は思わず声を上げた。
「あれ?お前ツナ達の知り合いだったのか!」
声の主に目を向けたディーノが驚いた表情を見せる。
「なんだ?とディーノさんって知り合いだったのか?」
山本が皆を代表して疑問を投げかける。
「あぁ。恭弥の修行に行ってた時、何度かぶつかってな」
ははっと苦笑いをしながらでディーノが答える。
「何度かぶつかるってどんだけドジなんだよ」
獄寺が眉間に皺を刻みながら吐き捨てた。
「まーまー、いいじゃねーか」
山本が笑って全てをまとめる。
カラッ
「こんばんは」
「へいらっしゃい!ツナ君御一行!」
その声に皆の視線が入口へと集まる。
「ツナ君!」
「ツナさん!」
「10代目!!」
こうして主役が揃いランボの退院祝い兼相撲大会祝勝会が開かれた。
「それにしても、ツナたちのクラスメイトだったとは驚いたぜ」
「私もです。ディーノさんが知り合いなんて」
「こんな所で再会するなんて、ぶつかってたのも案外偶然とかじゃないのかもな」
楽しそうに笑うディーノの表情を見ては自分の体温が上昇するのを感じた。
「なぁ。明日、少し時間あるか?」
「え?」
突然の申し出には目を丸くした。
「ちょっと話たいことがあって。
まぁ、俺もあんまり時間がないんだけどな。夕方に少しだけ、どうだ?」
ディーノにそう言われてに断わる理由などない。むしろ断わるつもりもない。
「大丈夫です。えっと、何時ごろですか?」
「そうだな…5時くらいに。
場所はー…あの階段の所が良いな。初めてぶつかった所」
ディーノはほんの少し照れくさそうに笑った。
「あ、はい。分かりました」
はしっかりと頷いた。
翌日。
放課後の校舎には遠くから聞こえる合唱部の声と
外から聞こえる運動部の声が僅かに響いていた。
「悪ぃ。待ったか?」
階段下から聞こえたディーノの声には慌てて振り返る。
「大丈夫です」
ディーノは階段を上がってと同じ高さに立った。
「話したいことってなんですか?」
「話ってほどのもんじゃないんだが、挨拶しときたいと思ってな」
「…え…?」
の心に僅かな不安がよぎる。
「今日、イタリアに戻るんだ。だから、その挨拶」
自分の不安が的中したことをは感じた。
どう見てもディーノは外国人だ。
話を聞いた限りだと例の相撲大会と雲雀の修行相手をする為に来日していたようだ。
それならば、当然自分の国へと帰る日が来る。
覚悟は、していた。
だが、思うことと実際に言われることでは差がありすぎる。
「そんな寂しそうな顔するなよ」
ディーノに言われては、はっとした。
ただ、目の前のディーノも寂しそうな表情をしているように見える。
「あの時も言ったが、俺がとぶつかったのは偶然じゃないと思ってる」
「…ディーノさん?」
ディーノはゆっくとした動作でジーンズのポケットから
二つ折りにされた1枚の紙切れを取り出した。
「迷惑だったら捨ててくれてかまわない」
差し出されたその紙をは受け取り、それを開く。
「…これって…」
思わず目を見開いた。
そこには綺麗な字でディーノの名前、そして電話番号とメールアドレスが記載されていた。
「繋がり、絶ちたくねーんだ。俺の、勝手な感情だけどな」
「迷惑なんかじゃないです!」
は自分の感情が高ぶるのを感じた。
「そっか。良かった」
ディーノは安心したように笑う。
「ツナの様子見に来ることもあるからな。日本に来る時は必ず連絡する。
その時はまた、こうやって会ってくれ。もちろん、暇な時でかまわない」
「絶対!会います!」
は強く答えた。
「そうだ、ディーノさん!これ!」
ポケットから取り出した生徒手帳にペンを走らせると、はそれを1枚破りとって、
ディーノへと差し出した。
「携帯とか持ってないけど。パソコンはあるからっ」
そこに記されていたのはパソコンのメールアドレスだ。
「じゃぁ、日本に来る時は必ずここにメールする」
受け取ったディーノはとても嬉しそうな表情を浮かべる。
「ボス、そろそろ時間だぜ」
階段の下、ちょうど死角になっているところから声が届く。
「あぁ、わかった」
ディーノは階下に向けていた目をに戻す。
「行かねーと…。
、元気でな」
「はい。ディーノさんも元気で」
は精一杯の笑顔を見せてディーノに手を差し出した。
「…うわっ!!」
ディーノは差し出された手をとるとそれを引き、を抱きしめた。
「必ず会いに来る」
それだけ告げるとすぐに体を離し階段を駆け下りる。
「またな、!」
最後にそう言ってディーノはの視界から消えた。
「…ディーノさん…」
残されたはその場にしゃがみ込み、1枚の紙切れを持つ手に力を込めた。
今の彼女に出来るのは彼の姿を、彼の言葉を、心の中で強く想い、留めることだけだった。
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