眩しいほどの太陽

中学三年




とても良く晴れた日。
日曜日には町内を歩いていた。
特に目的もない。予定もない。
受験勉強という予定はあるが、
今日はそんな気分になれなかった。
そしたら天気が良かったので外に出てきた。

「…暑」

梅雨が明ければ夏になる。
身体に降る光はその色を帯び始めていた。
ちりちりと焼ける感覚が分かる。太陽の暑さ。

「眩しい…」

は手をかざして太陽を見上げた。
キラキラと光る太陽。
その眩しさにの心臓辺りがキュッとなる。
その原因は分かっている。

パシャッ

近くで涼しげな音がした。
はそちらへ目を向ける。
花屋の軒先で店員の人が水を撒いている。
打ち水。
日本独特の文化のそれ。

「あ」

その花屋で一つの花が目に止まった。
そうしてまたの心臓辺りがキュッとなる。

「向日葵」

目についた花の名を口にして、歩みを向けた。

「いらっしゃいませー」
「すみません、これ、ください」
「一輪でよろしいですか?」
「はい」

店員さんから花を受け取って、
代わりにお金を渡して、は店を出た。
太陽の眩しさと、向日葵の鮮やかさ。
そして今日はとても綺麗な青空。

「ディーノさんみたい」

先ほどからキュッとなる感覚。
それは紛れもなく、ディーノを思ってのことだ。
太陽の様にキラキラとした髪の色、向日葵のような大輪の笑顔、
そしてその姿を見ると自分の心が青空の様に晴れ渡る。

「逢いたいな」

向日葵を見て思う。
イタリアと日本ではあまりに遠い。
夏が正念場の受験生。学業の大切さは分かるが
それでも逢いたくなるのだからしょうがない。
そう簡単には逢えない距離ではあるけれど。
そもそもディーノは社会人だ。自分よりももっと忙しいはず。
頻繁に来日は出来ないだろう。
自分には待つしか出来ない。
それが何とも歯痒い。
『逢いたい』などと我侭を口にするわけにはいかない。

?」

「…?」

ふと名を呼ばれてきょろきょろと周りを見る。
同じ名前の人が偶然この近くにいたのだろうか?

「やっぱりじゃないか!」

はっきりと聞こえた声に振り向く。

「…ディーノさん!!」

キラキラと眩しい髪、大輪の笑顔。
そして、それに呼応するように晴れる自分の心。

「こんな所で逢えるなんて思ってなかったぜ!」

が驚いて声が出ない間に、ディーノは直ぐ傍までやってきた。

「ははっ!凄い偶然だな!」
「ど、どうして此処に?」

ぎゅっといつもの様に抱き締められ、は我に返った。

「急に休みがで来て来日したんだ。
 連絡を入れる余裕もなかったんだが。
 けど、に逢えた」

とても嬉しそうに笑うディーノを見て、
の心臓の辺りがキュッとなる。

「驚いた」
「私もです」

ふふっと互いを見て笑う。

「それは、向日葵か?」
「あ、はい」

は恥ずかしそうに頷いた。

「どうした?」
「い、いえ…」
「言ってみ?」
「わ、笑わないですか?」
「あぁ」

は内容も聞いていないのにこう尋ねるのは
ズルイと思ったが、それでもディーノは頷いた。

「ディーノさんに、似てるなって思って」
「俺に?向日葵が?」
「…はい…」

こういう感性は女性独特なものなのだろうか?
それとも日本人独特なものだろうか?
は答えながら不安になった。

「それは…嬉しいな」

すると彼女の不安を他所にディーノはふわっと笑った。

「おっと、笑っちまったか?」
「…いいえ」

慌てるディーノにクスクスとが答える。

「俺に逢いたいって思っててくれたんだろ?」
「…はい」
「なら、こんなに光栄なことはないさ」

そう言ってディーノはまた笑う。
本当に眩しい笑顔だ。

「そうだ、今日は勉強良いのか?」
「はい。息抜きも必要だと思って」
「じゃぁ、俺にその時間、くれないか?」

ディーノはすっとの前に手を差し出した。

「はい」

頷きながらはそっと自分の手を添えた。


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