甘い甘い
23歳
近くまで寄ったからと、は友人の家を訪ねた。
昔の話や、近況報告など、いろんな話に花を咲かせつつ、楽しい時間は過ぎて行った。
その帰り際、友人に箱を貰った。中身はチョコレートらしく、食べたくなったからと、取り寄せたらしい。せっかくだからと、にもお裾分けしてくれたわけだ。
中にはスプーンが入っているからと言われ、お礼を言って、迎えの車に乗り込む。
「それ、どうしたの?」
車の後部座席に乗っていた雲雀に尋ねられ、は答えた。
「貰ったんです。チョコレートだそうです。中にスプーンが入ってて、器もチョコでできてるから、食べられるらしいですよ。すごいですよねっ!」
嬉しそうな、に、雲雀の口元も緩む。
この近くに、彼女の友人が住んでいるのは知っていた。に友人を訪ねるように勧めたのは雲雀だ。
最初は、急に押しかけたら迷惑じゃないかと心配していたが、と、その友人の関係から、そんなことはないだろうと雲雀はわかっていた。実際に行って、彼女の友人がの訪問を迷惑に思っていたということはないだろう。その証拠に、は、とても楽しかったという表情で帰って来た。
「スプーンがあるなら、今食べれば?」
「え?」
雲雀のアジトにつくまではまだ距離がある。そこまで溶けるなんてことはないだろうが、今食べても問題はないはずだ。
「ここで、ですか?」
の返答ももっともだが、この車の後部座席は、車の中でゆったりできるように、簡単な机も出せるようになっている。
小さな冷蔵庫なんかも、あるから、飲み物だってある。
ここで何かを軽く食べることには何の不自由もない。
「じゃあ、せっかくですし、開けましょうか」
は、うきうきとした様子で包装と箱を開ける。
そして、中のチョコを取り出すと、箱の中見たり、周りをみたりし始めた。
「どうかしたの?」
「いえ。スプーンが一つしかないので」
てっきり、二つ入っていると思ったらしい。彼女の友人は「雲雀さんと食べて」と渡したようで、その言葉から、2本入っているものと思ったようだ。
「いいよ、一つで。僕は一口だけ貰うから、後は君が食べなよ」
そういうと、雲雀は、手際よくチョコをビニール袋から出す。
本当に蓋も、器もチョコでできている。
「あっ!」
「何、どうかしたの?」
「いえ、それが、友人から、食べるなら、一言言ってから食べてねと……」
「何それ。……いうなら、早く言えば?」
「…………り……ん、……き、です」
「……?」
「雲雀さん、好きですっ!」
「っ?!」
「って、言えって言われたのでっ!」
思わぬ言葉に、雲雀は少し動きを止めた。は恥ずかしかったのか、顔を赤くして、速攻で、言葉を付け足した。
別に友人に言われたからと言って、言わなくてもばれることはないだろうに、正直に言う。それが彼女のいいところであり、そんな彼女でなければ、雲雀が傍に置くなんてことはなかっただろう。
「そう」
雲雀は、何事もなかったように答える。少し彼女をからかってみようかとも思ったが、顔を赤くしているが見れたから、今回はそのままにすることにした。
そんな雲雀の態度に、は少しほっとしたようだ。
「食べないの?」
「た、食べます! でも、雲雀さんから……」
「スプーン」
「え?」
「君が持ってるよね?」
中のチョコとスプーンを取り出してから、スプーンはずっとが持っていた。
「あ、すみません」
そういって、は、雲雀にスプーンを渡そうとした。
「ひ、雲雀さんっ!?」
雲雀は、からスプーンを受け取らず、彼女の手首をつかんだ。
そして、そのまま、チョコを掬い、自らの口に運ぶ。
生チョコのようで、かなり甘い。が、甘いのはチョコだけのせいではないような気もした。
「甘い……」
は、顔を再び赤くして、固まっている。
「、残りは君が食べなよ。それとも、僕に食べさせて欲しい?」
「い、いえ、大丈夫ですっ!」
我に返り、は、少しずつチョコを口に運ぶ。
雲雀は、その様子を静かに見つめる。
彼女は先ほどの雲雀の行動で、かなり動揺したようだ。じゃなきゃ今、が素直にチョコを食べてるはずはない。
チョコを口に入れる前に躊躇っただろう。
そのことをどのタイミングで言おうかと思い、雲雀の口元は弧を描いた。
FINE 戻る