季節の温度
高校一年
「群れるな」
バキッ
一声の後に衝撃音が響く。
春夏秋冬、天気問わず風紀委員の見回りはある。
この日も例に漏れず雲雀はトンファー片手に並盛町をぐるりと歩いていた。
「…はぁ…」
手にしていたトンファーを片付け、雲雀はひとつ息を吐く。
その息は外気に晒され白く染まった。
(今年は、去年より冷えるな…)
風が頬に触れ、ふとそんなことが頭を過る。
「…?」
雲雀は自分の思考に疑問符を浮かべた。
何故そんなことを思ったのか、と。
考えたのは他でもない自分。
気温についてなんて特に何とも思っていなかったはずだ。
夏は当然暑いし、冬は当然寒い。
ただ、それだけだったはず。
それなのに、気がつけば、去年と比較したり、前日と比較したり。
「委員長、そろそろ時間です」
草壁の呼ぶ声に、雲雀の思考は中断される。
「そう」
短く返事をして、くるりと身体を反転させ、来た道を戻り始めた。
「後は任せたよ」
「はい」
草壁にそう告げて雲雀は彼の前を横切っていく。
雲雀がやってきたのは並盛高。
正確には戻ってきた、と言った方が正しい。
下校のため学校を出て行く生徒と、学校に入って行く雲雀。
生徒達は一度驚いた表情をして、直ぐに雲雀の為に道をあけた。
それを気にすることもなく、肩に掛けた制服の袖をヒラヒラと
風に揺らしながら雲雀は校内へ向かう。
「戸締り良し」
ガチッと施錠を確認しては頷く。
「終わったの?」
「えっ!」
聞こえた声には振り向いた。
「委員長!」
その姿を見て驚きの声が上がる。
「今日は一人?」
図書委員の業務は基本、二人一組で行う。
それが、今日はの姿しかない。
「いえ、先輩は急ぎの用があると言っていたので、先に帰りました」
「そう」
業務をこなしているなら問題はない。
戸締りまでが仕事といえばそれまでだが、
責任を持って誰かがやるならそれでいい。
秩序は乱れていない。
雲雀は納得して頷いた。
「仕事は、終わったんですか?」
は遠慮がちに尋ねた。
図書委員の仕事がある日はいつも、
終わりと同時に雲雀が迎えにやってくる。
それは乱れることがなく、実は明日に持ち越せるものは持ち越して、
翌日無理をしているのではないかと、は心配していたのだ。
「終わってるよ」
そんなの心配を他所に、雲雀はあっさりと答えた。
「それじゃぁ、私は職員室に鍵を…」
「貸して」
「え?」
職員室へと向かおうとしたを雲雀は引き止める。
「鍵、僕が預かっとく」
「ですが…」
思いがけない雲雀の言葉には戸惑った。
「…後で少しだけ調べたいことがあるんだ。許可は取ってる」
「そうだったんですか。それじゃぁ、お願いします」
雲雀が並べた言葉に頷くとは素直に鍵を渡した。
「帰るよ」
受け取った鍵をポケットに仕舞うと雲雀はの手をとる。
「わっ!」
繋がれた手に戸惑いの声が上がるが雲雀はそのまま歩き出した。
「あ、あのっ。委員長」
「何?」
ゆっくりとした速度で歩いているとが声をかける。
「とても手が冷えてますが、大丈夫ですか?」
「外にいたからね。問題ないよ」
繋がれた手から伝わる温度が高い。
それは雲雀の手が冷えていることを示し、
の手が温かいことを示している。
(あぁ…だからか…)
雲雀は先ほど外にいた時、思った疑問に答えを見つけた。
(彼女の温度を知ったからか…)
何か、あるいは誰か、と自分の温度差を知るから、
他の物事の温度差が気になるようになったんだ。
「君の手は温かいね」
「えっ!」
思いがけない雲雀の言葉にの顔が赤くなる。
手に伝わる温度が僅かに上がったことを感じ、雲雀は思わず笑みを零した。
当然、それを数歩後ろを歩くが知るはずがない。
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