アルバイト
高校一年
「…アルバイト?」
「はいっ」
放課後の応接室では今日の出来事を話した。
友人が捲っていた求人情報誌から始まったバイト談議。
「なんだか面白そうじゃないですか?」
「そんなに貧困してるわけ?」
を見て雲雀は動かしていたペンを止める。
「そんなことはないですけど。
社会勉強にもなりそうですし」
「ふーん…」
雲雀はなんだか面白くなさそうな表情だ。
「…そんなにしたいの?」
「え?」
は目を丸くした。
「アルバイトだよ」
「できたら良いなとは思ってますけど…」
その答えを聞いて雲雀はまたペンを動かした。
並高ではアルバイトは禁止事項に入っていない。
様々な環境下の生徒がいるし、何より社会勉強にもなる。
だが、バイトをするということは、雲雀と一緒に帰ったり、
こうやって放課後に話をする時間が削られるということだ。
それを知ってか知らずかは自分がバイトをしている姿を想像して楽しんでいた。
それを見て雲雀は小さく溜め息を吐いた。
彼としては正直その提案を受け入れる気はない。
自分との時間を減らしたいからバイトの話を
持ち出したわけではないことはちゃんと分かっている。
それでも雲雀も男だ。
気に入った人とは出来る限り傍にいたいと思っている。
だが、目の前で楽しそうにしている彼女を見ると仕方ないか、とも思う。
「…ラ・ナミモリーヌは?」
聞こえてきた言葉には雲雀を見る。
「あそこも求人募集してるはずだよ」
気付かないフリをして手元のノートを一ページ捲った。
「委員長…」
「興味があるなら行ってみる?」
「はいっ」
雲雀の提案には頷いた。
ラ・ナミモリーヌといえば、京子やハルが好きなケーキ屋さんだ。
もちろんも例外ではなく、お気に入りのケーキ屋さんである。
「いらっしゃいませー」
店内に入ると笑顔で迎えてくれた店員だったが
一瞬でその表情が笑顔のまま固まった。
「店長、いるかい?」
「はぃっ!只今!」
雲雀の声に店員は即座に反応する。
「やぁ、ヒバリ君」
やってきた店長が深々と頭を下げる。
それを見ながらは『やっぱり委員長って知り合い多いなぁ…』と思っていた。
これまで雲雀と行動してきたが、様々な所で店長や
病院の院長が雲雀に挨拶をしているのを見かける。
「求人募集で彼女を薦めに来たんだけど」
そう言って雲雀はを見る。
は、はっとなって一礼した。
「ヒバリ君の推薦ならどんな人でも大丈夫ですよ。ははは」
店長は爽やかな笑みで答えた。
「次回履歴書を持ってきてくれるかな?
あぁ、いつでも良いよ。都合の良い日でね」
「わ、分かりました」
店長に言われては頷く。
「良かったね」
「はいっ!ありがとうございます、委員長!」
は雲雀に笑顔で頭を下げた。
まだ採用が決まったわけではないがはとても嬉しそうだ。
最も、此処で不採用などにしてみれば、この店長に未来はない。
「えっ!」
「ホントに?!」
次の日バイトの話を京子と花は驚いた声を上げた。
「よく雲雀さん許してくれたわね」
「え?でもラ・ナミモリーヌ勧めてくれたの委員長だよ?」
「いや、もうそれが不思議でならないわ…」
の言葉に花が答える。
「雲雀さん優しいね」
「いや、この子が恐るべきよ…」
京子の言葉に花が苦笑する。
「でも採用されるかなぁ…」
「されるに決まってるでしょう」
の心配そうな声に対して花が素早く返した。
「店長が愚かじゃなきゃな」
続けて小さく呟いた。
「そういや、ラ・ナミモリーヌってことはケーキとか貰えるんじゃない?」
「そうかなぁ…だったら楽しみだな」
花の言葉にが楽しそうな表情をする。
「じゃぁ、ちゃんがアルバイト頑張ってるところ見に行かなきゃ」
京子が笑って言う。
「えぇっ?!」
「良いわね。
この子がバイト入ってる日に合わせて皆で行きましょうよ」
「来るならせめて慣れてからに…」
とんでもない提案に、は控えめながらも自己主張した。。
「頑張ってね、ちゃん」
「ラ・ナミモリーヌに良く楽しみが増えたわね」
「紹介してくれた委員長の為にも頑張るっ!」
こうしては高校生活で新たなスタートを切るのである。
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