巻き込まれるのは周りだけ

高校二年




「…」

太陽光が差す昼時、雲雀は机に開いていたファイルを閉じると、席を立った。

ガチャ

「委員長、出られるのですか?」
「何?」
「い、いえ」

応接室を出ると草壁に声をかけられ、雲雀が一瞥すると、草壁は頭を下げた。

「来たら待つように言ってて」
「はっ!」

主語がなくとも雲雀が言いたいことは分かる。
草壁は再び頭を下げ、自らの主を見送った。






「…」

周りを見ながら雲雀は校内を歩く。
肩に掛けられた制服の袖が風を受けてフワフワとなびく。

「…!!」

周りにいる生徒は、雲雀を見るや否や、壁側へと下がった。
今の彼が持つ空気は、周りを切るように鋭い。

「…いた…」

ふと足を止めて、雲雀は窓に近づく。
雲雀が探していた人物、を見つけたのだ。

「…?」

窓に手を当てて、雲雀は僅かに眉を寄せた。
が誰かと話している。
相手は恐らく、彼女の友人ではない。
仮にそうなら、今の時間帯にがいる場所、応接室で共に昼食を取る事を
ちゃんと分かっているので、促しこそすれ引き止めることなどまずしないだろう。
余程のことがない限り。
ならば誰なのか。

「…?」

雲雀は窓に添って歩き、と一緒にいるであろう誰かを確認しようとした。

「…」

少しして彼の眉間に皺が刻まれる。
雲雀はその場を離れると、廊下を歩き渡り廊下へと出た。
そして、真ん中辺りで足を止めると、そこから下の様子を見る。
その目は冷たく静かな怒りを帯びていた。

パタタタッ

雲雀の横を黄色い鳥、ヒバードが飛んでいく。
その動きを軽く目で追いながら徐に左手をゆっくりと上げた。
銀に輝くトンファーが握られた左手を。

「…っ!」

刹那、地面に向かって叩きつけるが如く振り下ろした。



パタタタッ

「ココニイタッ」
「ヒバード!」

舞い降りたヒバードに気づいては呼びかける。

「ヒバード?」

が、ヒバードはの横をすり抜けて、渡り廊下の中央部まで来て着陸した。

「どうしたの?」

はつられるようにヒバードの元へいく。

「恭弥のヒバードか?」

ディーノもと同じようにヒバードの様子を見るべく一歩踏み出した。

「はっ!」

が、何か感づいたのか、ディーノは一歩半後ろに下がった。
その瞬間。

ガツンッ カランカランッ

ディーノの前髪を掠る様に銀色の物体が落下し、地面に激しい音を立てて落ちた。

「うおっ!!」

慌ててディーノは鞭を手に構える。

「…ト…トンファー…?」

落ちてきた物体を見るディーノ。

「動かないで」
「?!」

上から降ってきた声にディーノは更に後ろへと飛び下がる。

ズダンッ

先程よりも大きな音を立てて何かが落ちてきた。

「きょ、恭弥!!」
「い、委員長?!」

ディーノとが驚く。
音の発生地点にいたのは雲雀だったのだ。

「動かないでって言ったよね?」
「動かねーと当るだろ?!」
「当てるために動くなって言ったんだよ」

雲雀はそう言うと地面を蹴り、先に落とした
トンファーを拾い上げてディーノに向かって攻撃を仕掛ける。

「待て待て待て恭弥!」

ディーノが制止の声をかけつつ鞭で攻撃を受けとめる。

「部外者は校内立ち入り禁止!」

問答無用といわんばかりに雲雀はトンファーを振るう。

「俺はちゃんと用事があるんだって!」
「それが彼女じゃないならさっさと何処か行きなよ」
「落ち着けって恭弥!」

ディーノは雲雀の右腕とトンファーを鞭で一纏めにした。

「今日の俺はツナに用事があるんだ。つっても放課後だけどな」
「…」

雲雀は左手のトンファーを落とすとポケットから携帯を取り出した。

「副委員長。今すぐ沢田綱吉を正門まで行くよう指示して」

口早にそう告げると雲雀は携帯を切る。

「お、おい。恭弥?」

雲雀の素早い行動にディーノは尋ねた。

「あなたも早く正門に行きなよ。沢田綱吉がもう向かってるよ」

そう言って雲雀は自分の右腕を強く振った。

「わ、悪ぃっ」

ディーノは慌てて鞭を外す。

「よく分かんねーけど、恩に着るぜ、恭弥。もまたな!」

そう言って二人に挨拶をするとディーノは走り出した。

「行くぜ、ロマーリオ!」
「おう」




「い、委員長?」

あまりの展開の早さについていけなかったはようやく声を出した。

「君、何してるの?こんな所で」
「え。す、すみません…」

雲雀の言葉には思わず頭を下げる。

「行くよ」
「あ、はいっ」

歩き出した雲雀に慌ててはついて行った。

「あの、委員長」
「何?」

数歩後ろを歩くの声に雲雀は顔を向ける。

「何故、委員長があそこに…?」
「…」

の質問に雲雀は思わず脱力する。
もちろん、それを表には出さないが。

「君があまりに来ないから迎えにきた」
「えぇっ?!ほ、本当ですか?!」

雲雀の言葉には驚く。

「さぁ、どうかな」
「委員長?!」

クスリと笑って雲雀は前を向くと、歩みを進めた。





ガラッ

「沢田綱吉!今直ぐ正門へ行け!」
「え?!」

教室に響いた声に、ツナと友人達は驚いた。他の生徒も同様だ。

「荷物を持て!これは委員長からの命だ!」
「は、はいっ」

草壁に言われて、ツナは慌てて弁当箱を鞄に仕舞うと荷物を持った。

「よく分かんないんだけど、また、明日?」
「いえ、10代目!俺も行きます!」
「えぇ?!良いよ、獄寺君」
「いえ!行きます!」
「何かよくわかんねーけど、面白そうだな」
「オメーは来なくて良いんだよ」

「何でも良いから早くしろ!」

問答をする三人を見ながら草壁が一喝した。

「は、はいっ!!」

ツナは慌てて荷物を持つと教室を出た。

「10代目!お待ち下さい!」
「おい、ツナ!」

そしてそれを追いかけるように獄寺と山本が続く。

「………はぁ………」

三人を見送ると草壁は溜め息を一つ吐き、その足を職員室へと向けた。
無論、彼等のフォローを入れるために。



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