連なる想像
高校一年
「…委員長の家ってどんなだろう?」
「は?」
「え?」
いつもと変わらない、の突然の一言に、花と京子は彼女を見た。
「雲雀さんの家ってあれでしょ?塀で囲われた」
言いながら花は目線を京子に移す。
「そうそう。純和風建築の凄く広い外見のところ」
京子は頷く。
並盛町に住んでいて雲雀の家を知らない者はいない。
知らない者がいたとすればそれは外部から引っ越してきた者達だ。
を始め、花や京子は生まれた時から並盛町に住んでいる。
雲雀の存在は抜きにしても、町内に建つ豪邸の存在は目立つので、知らないはずはない。
「けど、雲雀さんの家の中ってどんな感じなんだろう?」
「が行けばわかるんだけどねー」
話をしながら二人はに視線を向ける。
「そんなっ!恐れ多いよっ!」
「相変わらずうるせーな」
「獄寺」
かけられた声に花が顔を向ける。
「の声はよく通るなー」
楽しそうに山本が言う。
「今日は何の話?」
ツナが花と京子を見る。
「雲雀さんの家はどんなのだろうって」
京子がツナを見た。
「ヒバリさんの家っ?!」
話題の中心人物の名前を聞いてツナが驚く。
「ちゃんは行かないのかなって」
「あぁ。けど、ヒバリの家って結構な名家なんだろ?」
「え?」
山本の一言にその場の全員が彼を見る。
「いや、違ったか?」
「どっち?!」
続けられた一言にツナがツッコミを入れた。
「テキトーな事言ってんじゃねーぞ」
獄寺が山本を睨む。
「い、委員長って、名家なの…?」
は確認する様に山本を見た。
「いや、分かんねー」
「テキトー過ぎるよっ」
笑う山本にツナが再びツッコミを入れた。
「けど、名家じゃなくてもそれなりに力がないと、あれだけ並盛好きに出来ないでしょ?」
冷静に花は言う。その言葉にの表情が変わる。
「うそっ!け、けどさ、それってつまり…そういうこと?」
「どういうこと?」
不安そうに言ったの言葉にツナが首を傾げる。
「話が見えねーぞ」
獄寺がを見た。
「名家とか権力があったりすると、その、あれですか…?」
どうもは具体的に単語を口に出来ないのか言葉が続かない。
それを見ながら全員が頭を捻る。
が言いたいことが何なのか…。
「…あ。許婚?」
「うわぁっ!!」
ツナの一言にが悲鳴を上げる。
「それはないんじゃないかな」
「本読みすぎじゃねーか?」
「今のご時世に…」
「ヒバリらしくもないな」
京子、獄寺、花、山本が否定の言葉を並べる。
「そんなのあっても自分でぶっ壊してそうだけど」
ツナが苦笑して続く。
「そんなの分からないよっ!」
は頭を振った。
「雲雀さんの彼女はちゃんでしょ?」
「彼女じゃないよっ!」
京子の言葉をは速攻で否定した。
「…彼女じゃなかったらバレンタインとか何やってんのよ二人とも」
「…戯れ…?」
「さん、何言ってんの…」
花の問いに答えるだが、出てきた解答にツナは脱力した。
「そんなに気になるならヒバリに聞けば良いんじゃね?」
「無理っ!絶対!」
「何か麻薬撲滅みてーな感じだな」
自分の言葉に返ってきたの反応に山本が笑う。
「なら他のヤツに聞けば良いだろ?」
獄寺が打開策を提案する。
「草壁先輩?でも草壁先輩は委員長の味方だもん」
パッと脳内に浮かんだのはもちろん『歩く雲雀辞書』こと風紀委員副委員長草壁だ。だが、彼は『歩く雲雀辞書』以前に雲雀の味方である。
「なら雲雀さんと話せそうな人?」
花がを見た。
「分かった!沢田君」
はポンッと手を打ってツナを見る。
「お、俺?!何その正解!みたいな顔っ!
悪いけど俺だって命惜しいよっ!!」
冗談じゃないというようにツナは完全拒否を掲げた。
「ならー、獄寺君?」
「興味ねぇ」
の言葉にあっさりと獄寺は答えた。
「後は山本君?」
「かまわねーけど、ヒバリのやつ答えてくれっかな?」
の難題を受け入れてくれる山本の懐の広さは素晴らしいが、彼の言った言葉も最もである。
「やっぱりが聞いた方が早いんじゃない?」
花が軽く手を上げて提案した。
「そんなのできないよっ!それでもし…もし…」
段々との言葉が小さくなっていく。
彼女の心を過るのはどれもマイナスなことばかりだ。
「大丈夫だって!」
落ち込むを花が励ます。
「そう思うなら黒川さん聞いて来てよ!」
「それは無理」
の申し出に花は首を横に振った。
「とりあえず応接室に行ってきたら?」
「何言ってるの笹川さんっ!」
思わぬところから出てきた提案にが驚く。
「それが良いんじゃね?」
「妥当だな」
「うん、そうだね」
山本、獄寺、ツナも頷く。
「無理だって!そんなのっ!」
「さーんっ!風紀委員が呼んでるよ―!」
「えっ?!」
議論をしていると突然クラスメイトから声がかかる。
目を向けると、入り口に草壁の姿だ。
「草壁先輩?!」
「委員長がお呼びだ。急げ」
草壁はその良く通る声でに用件を告げた。
「ちゃん、急がなきゃ!」
「早く!女は度胸!聞いてこいっ!!」
そして、驚くを後ろから押す京子と花。
「ちょ、ちょっと?!」
驚きながらもは教室の入り口へと向かった。
そして、草壁と合流するとその足は応接室へと向かう。
「行ったわね。少しは話聞けるのかしら?」
を見送ると花は京子を見た。
「心配する事なんて一つもないのに」
京子がふわりと笑う。
「雲雀はのこと好きだからな!」
「ホントにね」
「わっかんねーもんなんだな」
山本の言葉にツナと獄寺も頷いた。
「が来ました」
「通して」
雲雀の言葉に草壁は応接室の扉を開ける。
「、二歩前へ進め」
「え。あ、はい」
言われるがままは二歩前に進んだ。
「では、これで」
「え?!草壁せんぱ…」
バタンッ
が呼び終わるよりも前に扉は閉められた。
草壁が言った二歩前は、応接室内に入るための二歩だったのだ。
それが証拠に、は扉ギリギリに立っている。
「…ということなんだけど…」
「………」
「聞いてた?」
「あっ!はいっ!スミマセン!」
返事のないに雲雀は声をかけた。
「何かあったの?」
「いえ、その…」
泳がせるその視線に雲雀は首を傾げる。
「言いなよ」
「ですが…」
「言えないわけ?」
「うぅ…」
畳み掛けるように雲雀は続ける。
こういった責め苦を相手に使うのは好きではない。
だが、彼女が何か言いたいことがある時はこうでもしないと話が進まないのも事実だ。
「実は…」
色々と観念したはポツポツとことの顛末を話した。
「…はぁ…」
話を聞いた後、雲雀は小さく溜め息をついた。
「君らしいといえば、君らしい発想だね」
雲雀は一歩二歩とに近づいてくる。
「…」
は一歩後ろに下がる。踵が応接室の扉に当った。
「自分の障害になるような存在を、僕が許すはずがない」
雲雀はの前に立ち、そう告げる。
「そもそも、僕には君がいる」
「…そ、それは…」
言われた一言にの顔が赤くなった。
が、そう言われては新たな疑問が出てくる。
それを感じたのか雲雀は更に言葉を続けた。
「当然、君がいなくても僕はそんな者の存在は認めないし許さない」
「委員長…」
は僅かに雲雀を見た。
「そもそも、有りもしない存在に興味も何もないけどね」
雲雀はそう言うとの髪に触れる。
「僕の理想は僕が決める。
そういう人間だというのは君も知ってるだろ?」
「…はい…」
触れられる髪にドキドキと心臓を鳴らしながらもは頷いた。
雲雀はいつだって雲雀だ。
誰よりも自由だ。
誰よりも自分らしい。
「僕が君を選んでいる、君は不満?」
「そ、そんなことはないですっ!」
は慌てて否定の言葉を口にした。不満なはずがない。
「それなら、ちゃんと僕の傍にいなよ」
「…つっ!!」
耳元で囁かれ、は言葉を失った。
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