移動教室

中学二年




 授業というものは、教室でするのもだけではない。
 家庭科、美術、音楽、体育……など、技能教科と呼ばれるものは、特別教室へ、教科書、ノート、筆記用具、時には、それ以外の道具を持って移動する。
 持ち物が多いと、移動の途中で落としてしまうこともある。

「あっ?!」

 友人達と他愛も無い話をしながら、目的の教室へ向かっていたのだが、階段を数段登ったところで、躓いた。
 手すりにしがみ付き、転ぶことはなかった。しかし、その代償に、大きな音と共に、持っていた荷物は階段にばら撒かれた。
 筆記用具なんかは、いろんな所に散らばり、拾うには時間がかかりそうだった。

「ちょっと、まってっ!」

 一緒にいた友人達が、が荷物を落としたことに気づかぬはずもなく、が声をあげると、階段の踊り場で、こちらを見ていた。
 これで置いて行かれることは無い、と安心し、落ちた荷物を拾い集めていた。
 そのとき、友人達が、階段の上を見上げて、アイコンタクトをしたことは、はもちろん気づいていなかった。
 とにかく、あまり待たせてはいけないと、急いで拾う。いつもなら、何だかんだ言って手伝ってくれる友人達が手伝ってくれないことに薄情者と思いつつ、あと少しで集めきれるとホッとしていた。
 しかし、ノートが見当たらず、キョロキョロと周りを見渡す。

「君、何してるの?」

 不意に上から聞こえてきた声に、一瞬は固まる。我に返り、見上げると、雲雀がを見下ろしていた。
 恥ずかしいところを見られてしまった、とちょっと気恥ずかしくなりながら、答える。

「階段に、躓いてしまって……荷物を、落としてしまって……」
「君らしいね」

 雲雀は、の近くまで降りてくると、スッと何かを差し出した。

「あ、私のノート……えっ!?」

 ノートを受け取ろうと、手を伸ばすと、手首をつかまれ、引き上げられた。
 その勢いのまま、雲雀の方へ倒れこむ。
 はちゃんと立てたと確認すると、雲雀は手を離す。

「ほら、早くいきなよ。授業に遅れる」
「は、はいっ! 委員長、ありがとうございました」

 友人達がいないことにも気づき、授業に遅れるわけにはいかないと、はパタパタと階段を上がっていく。
 その後ろ姿を見て、雲雀は、足取り軽く、校内の巡回を続けた。  

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