王子様

中学二年




 『応接室』とは、来客を迎え入れ、対応する場所であるが、ここ並盛中では、その常識は無い。
 並盛中の応接室は、並盛を牛耳っている雲雀恭弥の部屋であり、気軽に入れる場所ではない。気軽でなくとも、入ることが許される生徒は数名だ。
 も、その『応接室に入ることを許された生徒』である。しかも、主不在であっても、中に入って、待っていてもよいという許可をもらっている。
 それも、これも、彼女が雲雀恭弥の隣に立つことを許された女性であるからなのだが、彼女自身はその自覚はない。彼女に、それを言おうものなら、「委員長の隣は草壁先輩です!」と言うだろう。彼女が隣に立つことを許されているのは、草壁や他の風紀委員とは全く違った意味であるのだが。
 話は戻るが、その応接室の扉を開けたがみたのは、室内に置かれているソファーで、金髪の青年がくつろいでいる光景だった。

「あ……あの……ここは、応接室ではあるんですけど……」

 が声を掛けると、青年と目があった。
 良く見ると、彼は外国人のようだ。きっと、あの髪の色は地毛なのだろう。
 そんな風に思っていると、青年は、笑顔になり、に話掛けてきた。

「ひょっとして、か!」
「え? そ、そうですけど……」

 何故彼が自分のことを知っているのだろうか。自分と彼は初対面のはずだ。しかし、は、ちょっと会っただけのときは忘れてしまっていることがある。今回もそれかもしれないと思うものの、流石に目の前の青年に会えば覚えているはずだ。ということで、やはり初対面であるという結論に至った。

「恭弥からいろいろ聞いてるぜ」

 雲雀の名前が出て、初めて、の警戒心が解ける。

「委員長のお知りあいですか?」
「ああ。俺はディーノ。恭弥の家庭教師をしてる」

 ディーノは見たところ、大学生くらいだ。その彼が家庭教師だとすると、アルバイトかなにかだろうかと思った。
 しかし、あの雲雀に家庭教師など、には全く想像ができない。

「話には聞いてたけど、やっぱり、恭弥も男だったんだな。こんな可愛い子を傍に置いておくなんて、隅に置けねえな」

 雲雀の知り合いであれば、ここにディーノがいても大丈夫かもしれない。むしろ、雲雀が許可をしたのだろうと、ホッとした矢先のディーノの言葉。

「それは、どういう」
「ここで、口説かないでくれる」
「っ!? あっぶねーな」

 どういう意味かを問おうとした瞬間、とディーノの間に誰かが遮るように立っていた。

「委員長!?」

 言わずともしれた、風紀委員長である。彼は先のセリフとともに、トンファーをディーノ目掛け振り下ろしたが、どうやら、避けられてしまったようだ。

「風紀が乱れるから、消えて」
「待て待て!! 口説いてなんかいないだろ!」
「……彼女に、可愛いって言ってたのはどこのだれ?」
「……いや、俺だけど。可愛い子を褒めるのは、礼儀だろ!」
「これだから、イタリア人は……。そんな礼儀は日本にはないよ」

 雲雀は心底呆れたといった様子で、ディーノを睨む。

「ヤキモチか?」
「本当に、咬み殺されたいみたいだね」

 トンファーを構えた雲雀を見て、ディーノは両手を挙げて、立ち上がる。

「悪かったって、今日は、恭弥のお姫さまを見に来ただけだ。これ以上暴れられたら俺が困るし、今日はもう帰るぜ」

 ディーノが帰るそぶりをみせると、雲雀は、一先ずトンファーの構えを解く。しかし、武器を手放す気はないらしい。
 そんな様子の雲雀を見て、苦笑しながら、ディーノは応接室を出て行った。

「あれに何かされなかった?」

 ディーノが出て行った後、二人はソファーに座り、お茶の時間にすることにした。

「何かって、何ですか?」
「何もされてないなら、気にしなくていいよ。むしろ、あの人のことは忘れて」

 若干不機嫌であるということを隠さないまま、雲雀は、湯のみに口をつける。

「でも、王子様みたいな人でしたね」

 の言葉に、雲雀の手が止まる。

「…………君、あんなのがいいの?」
「違いますよ! 金髪でハンサムな外国人って、おとぎ話に出てくる王子様みたいじゃないですか! そういう意味です」

 雲雀のあんなの発言に対し、は、全力で否定した。雲雀の言葉はともかくとして、この場にディーノがいれば、少なからず落ち込んでいたかもしれない。
 としては、雲雀のことが好きなのに、誤解されてはいけないという気持ちではあるのだが。

「そう」

 既に興味は失ったようで、雲雀の返事はそっけない。
 ディーノは確かにおとぎ話の王子さまのようだが、にとってみれば、自分の王子様は雲雀だ。
 しかし、そんなことを本人に言うのは、畏れ多いし、恥ずかしい。

「一時間経ったら起こして」
「ええっ! 委員長!!」

 言うや否や、雲雀は、の膝を枕にして寝てしまった。
 慌てるだが、雲雀は既に夢の中。
 急な展開に、は付いていけずに、はからずも、先ほどのディーノのことは頭から飛んでしまっていた。  

FINE 戻る