運命?

中学入学前




※ ヒロインが中学校に入学する少し前の話。




 応接室から下を見ると、が友人達と話していた。
 彼女は、今だに自分と話す時は緊張しているように感じる。
 初めて彼女に会ったときは、変わった女の子としか思っていなかった。
 しかし、段々と彼女を知るにつれ、惹かれていった。
 彼女と初めてあったのは、並盛中で、ではない。彼女が並盛中に入学する少し前の時だ。






 その日、雲雀は体調が優れなかった。
 少し頭がフラフラし、若干頭痛もする。もしかしたら、熱があるのかもしれない。
 だからなのか、数秒で潰せるはずの雑魚相手に、時間がかかった。
 体調が悪いのと、いつもの調子が出ず不覚にも手こずってしまったことで、雲雀の機嫌は最悪だ。
 そして、足元に転がっている雑魚達を見て、さらに機嫌は悪化する。
 弱いやつほど、群れたがり、風紀委員を連れず一人でいた雲雀を襲った。多勢に無勢、それなら勝てると踏んだのだろう。雲雀を襲ってきた奴らは、どいつも、一度雲雀に咬み殺された奴らばかりだった。
 人数は雲雀にとって、問題ではない。実力が違うのだから当たり前だ。
 男たちはあっという間に雲雀に咬み殺され、地に伏した。

「次は、誰から咬み殺そうか?」

 まだ立っていた奴らに視線を向けると、残りの奴らは、尻尾を巻いて逃げていった。
 群れても自分の身が危険とわかるとすぐ逃げる。
 いつもなら、逃がしはしない。追いかけ、残らず咬み殺す。
 しかし……。

「……疲れた……」

 今はそんな気分になれない。そして、やはり熱があるのだろう。どこかで休みたいと思った。
 学校に戻れば、応接室で寝られるが、そこまで戻る気力が今はない。
 しかたなく、少し休んでから戻ることにした。少し離れた場所で、壁を背もたれにし座る。
 雲雀が、息を吐くと、口の端にピリっとした痛みが走った。
 どうやら、口の端が切れているらしい。きっと、先ほどの戦闘でだろう。体調さえよければ、あんな雑魚どもからの攻撃を受けることはないのに、と雲雀の眉間に皺がよる。

「……あ、あの……」
「……何?」

 声が聞こえ、雲雀は警戒しつつ見上げると、そこには、少女が一人。

「こ、これ、使ってください……。怪我、してるから……」

 少女はビクビクしながら、ハンカチを差し出してきた。
 きっと、雲雀が怖いのだろう。怖いならそのまま無視して声などかけなければいいのにと思う。
 そう思いながらも、ハンカチを見ると、濡らしてあるようだ。きっと。態々濡らしてきたのだろう。

「……いらない。早く、僕の前から、消えてよ」
「……でも……手当て……」
「君も咬み殺されたいの?」

 雲雀がそういうと、少女はビクリッと肩を揺らした。
 これで、この少女もここから逃げるだろうと思っていた。しかし、立ち去る気配がない。

「そ、それは、嫌……です」

 この答えは、先ほどの雲雀の咬み殺すに対するものか。

「なら、早くどこかに行ってよ」
「でも、怪我は手当てしないと……」
「こんな傷、すぐに治る」

 しかし、少女は立ち去ろうとはせず。あまりに少女が食い下がるから、雲雀は、気まぐれでも起こしてみようかという気になった。
 ひょっとしたら、熱のせいかもしれない。普段ならこんなことは思わないのだから。

「っ?!」

 雲雀がハンカリを持っている少女の手首をつかみ、引き寄せると、少女はペタンと膝をついた。
 そして、少女の手首をつかんだそのまま、ハンカチを自分の額に当てる。
 ハンカチは、まだ濡れていて冷たくて、熱がある額にはヒンヤリとして気持ちいい。
 少女は、状況が分かって無いようで、目を白黒させて、固まっている。
 しばらく――といっても二、三分――そうしていたが、冷たいハンカチを当てたことで、少し楽になった雲雀は、少女の手を放して立ち上がった。

「あ、あの……」
「何?」
「もう、大丈夫なんですか?」

 少女が言っているのは、怪我のことだろう。
 彼女は口の端が切れてしまっている雲雀のためにハンカチを濡らしたのだろう。しかし、雲雀は額にあてたが、傷口には当てていない。

「やっぱり、これ、使ってください」
「別に、いら」

 雲雀が拒否の言葉を言い終わる前に、少女は、雲雀にハンカチを押し付けて、走って行ってしまった。
 残った雲雀の手には、少女のハンカチ。
 雲雀の熱と、時間とで、だいぶ温くなってしまっている。
 そのハンカチを学ランのポケットに入れ、並中の応接室に向かった。
 まだ熱はあるが、先ほどよりも格段にマシになり、機嫌もよくなっていた。





 あれから、日がたち、入学式でがこの中学に入学したことを知った。
 初めは純粋な興味だったのだ。だから、に接触してみた。
 初めてあった日から彼女の行動は予測不能で、雲雀を楽しませてくれる。その行動も、彼女なら許せると思ってしまうのだ。
 学ランに入ったハンカチに触れ、もう一度、下にいるを見つめた。

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