異国の客人3

二十歳




竹寿司もとい山本家へ永久就職をして早八ヵ月。
与えられる仕事も増え、山本家の一員としては、日々汗を流していた。
山本と一緒になってからは、山本本人とはもちろんのこと、
義父である剛との関係はより一層良好なものとなっていた。
ガラッ

「へいらっしゃい!」
「スクアーロ!」

姿を現した客人にカウンターにいた山本が驚く。
その声を聞いてが裏から出てきた。

「お久し振りです!」
「土産だ」

軽くを見るとスクアーロは肩に乗せるように持っていた
発砲スチロールの箱を少し掲げ、カウンターへ置いた。

「なんだこれ?」
「魚か?」

山本親子がカウンターから、置かれた発砲スチロールの箱を見る。
それなりに大きい箱の表面には僅かに水滴が付いていた。

「朝市があったからな」

そう言いながらスクアーロが蓋を開ける。

「おぉっ!」
「スゲェ!」
「でかっ!」

三種三様の感想がでた。
大きな箱の中には、これまた大きなマグロが横たわっていたのだ。

「早速捌くか?」
「だな。新鮮が一番だ」

山本の言葉に剛が頷く。

「…剣の使い手が3人もいりゃぁ面白いくらい捌けるんだろうなぁ…」

目の前の3人とマグロを見ながらは呟いた。
山本と剛が時雨蒼燕流の継承者だというのは知っている。
そして目の前にいる見事な銀髪の彼、スクアーロも超が付くほどの剣豪という話だ。
もちろんスクアーロは客人としてきているので解体を手伝うことはないだろうが、
要領さえ掴めればきっと剛が鯛を放り投げてお造りにするのと同じようなことが出来る筈だ。
3人揃えばきっとマグロなんて目ではない。

「…ただ、誰がマグロを放り投げるんだって話だよな…」

目の前のマグロはどう見ても百キロ越えはかたい。

?何か言ったか?」
「いや、何でもない。何処で捌きます?」

山本の声に首を振り、は剛を見た。

「裏で捌くか」

そう言うと山本は頷いた。

「運んでやる」

スクアーロがマグロに蓋をして持ち上げた。

「あ、こっちです」

はスクアーロの前に立って裏へと案内する。

「そこまででいーぜ。スクアーロ」

机に箱を置いたスクアーロを見て山本が笑う。

「あ゛ぁ?」

彼は山本を見た。雰囲気から察するに解体を見るつもりだったのだろうか。

「客人だからな。裏は職人の戦場だ」

剛が言葉を添える。

「う゛む。そうだな」

それを聞くとスクアーロは素直に下がった。

「ってわけで、これが終わるまでスクアーロと話でもしててくれ」
「え?!」

山本に言われた言葉には驚いた表情をした。

「いや、話すって…」

は自分の中の思考を総動員させてみた。
が、どう転んでもこれといって話題がない。
そもそもスクアーロと会ったことのほうが少ない。

「何とかなるって」
「お前はな」

とりあえず、山本にツッコミを入れ、はお茶の準備をした。

「…」

景気よく『お久し振りです!』とは言ってみたもののどうしたものか。とは考えた。

「まぁ、なんとかなるか…」

腹を括ってはお茶を持ってカウンターへと向かった。

「どうぞ」
「ん」

出されたお茶にスクアーロが手を伸ばす。

「ツナ達、元気ですか?」

はまず、共通の人物であるツナを話題に出した。

「そう頻繁には会っちゃいないがな。相変わらずだぁ」
「そっか…相変わらずか…」

懐かしむようには笑みを零す。

「便りがないのが元気な証拠か…」
「アイツも相変わらずだなぁ…」

スクアーロが裏の方に目をやる。

「あぁ。剣道の鍛錬もやってて、バッドに刀にフルスイング」
「結局両方か…」

眉を寄せてスクアーロが呟く。

「両方とも、アイツの大切なものだから」
「気に食わねぇがな…」

その言葉には苦笑した。
スクアーロは山本の剣の才能をかっている。
剣豪の彼としては山本を剣の道に向けたいのが本音だろう。



「終わったぜー」

暫く話し込んでいると、山本が顔を出した。

「じゃ、新鮮なマグロも捌いたところで、何にしましょう?」

カウンターのショーケースに先程切ったばかりの
マグロの短冊をそれぞれ入れて剛がスクアーロを見た。

「赤身からだぁ」
「はいよっ」

スクアーロの言葉に頷いて剛は寿司を握り始めた。

「相変わらず野球もやっているのかぁ?」
「当然だろ?こっちも譲れねーからな」

山本が笑う。

「…そうか」

スクアーロは小さく頷いた。
野球は山本の一部と言っても良い。
それがあったからこそ、時雨蒼燕流の攻式九の型が生まれたのだ。
自分を倒したあの技が。

「けど、アイツに、ツナに何かある時はゼッテー駆けつける。
 それは、ちゃんと間違いねーことだ」

山本は真剣な目で言った。

「なら良い」

彼には彼なりの覚悟があるようだ。スクアーロは頷いた。

「そういや、他の奴等は来てねーのか?」

山本がコロッと表情を変えて尋ねる。

「あんな五月蝿い奴等とこれるかぁ」

スクアーロは心底うんざりした顔で答えた。

「ベルとマーモンも同じ組織だっけ?」

が山本を見る。

「おう。あとはザンザスってボスとレヴィとルッスーリアとモスカがメインだな」
「ベルとマーモンには会ったことあるけど…。
 二人を基準にして良いなら賑やかそう。見てみたいな〜」
「冗談じゃねぇ…」

の言葉にスクアーロはウンザリしている。
よほど日常で何かあるのだろうか…。

スクアーロは自らが持ってきたマグロを中心に、
冬の旬ものであるハマチ、ブリ、ヒラメ、イクラなどを食べた。
そして支払いの時が来る。

「…」
「…?
 なんだぁ?」

は差し出された物を見た。スクアーロが首を傾げる。

「いや、何でも」

は差し出された物を受け取った。
それは紙幣だ。
触れ慣れた紙質に、見慣れた人物が描かれている。
福沢諭吉だ。

「スクアーロは持ってないのか?」
「何をだぁ?」

同じように紙幣を見ていた山本が尋ねる。

「ブラックカード」
「ブラックカードォ?」

復唱しながら彼は財布から一枚取り出した。

「これかぁ?」
「やっぱ持ってんだな」
「身近にブラックカード所持者が3人もいやがる…」

キラリと黒く光るカードを山本とが見る。

「何が言いたい?」

スクアーロがを見た。

「いや、ベルが4年前に、ディーノさんが3年前にそれぞれ来て
 ブラックカード出したから…スクアーロも持ってるのかなって」

簡単にが説明をする。

「あぁ。確かにベルはカードしか持たねぇからな。
 現金なんて一切持ってないぞ。アイツは」
「一切?」
「一切だぁ」

驚くにスクアーロが頷く。

「基本、カードが使えない所には入らねぇ。入ったら誰かに払わせてるな」
「うわ…王子だから?」
「そんな言い訳してやがるな」

呆れたようにスクアーロは答える。
彼の常套句は相変わらず『俺、王子だから』のようだ。

「何でスクアーロは現金なんだ?カードの方が楽だろ?」

素朴な疑問に山本が首を傾げた。

「この程度の額なら普通現金だろーがぁ」
「そういや、ディーノさんも札がねーからって言ってたな」
「それに、カードだと店にお金が入るの後日になるから。
 店側としては現金の方があり難い」

が言葉を付足した。

「へー。そういうもんかぁ」

山本が感心したように頷く。

「釣りはいらねぇ」
「そして、これが並との差」

はあり難くお札を受け取った。

「オイ、カスガキ。これから暇なのか?」

支払いを終えたスクアーロが山本に尋ねた。

「あるなら付き合え。鍛えてやる」
「おう。タケシ、行ってきな。こっちは大丈夫だ」
「分かった!行こうぜ、スクアーロ!」

剛の言葉に山本は嬉しそうに頷いた。

「行ってらっしゃい。私は親父さんと仲良くしてるから!」

はグッと親指を立ててにこやかに見送った。

「じゃぁ、今日は新しい料理教えちまうかな」
「やった!」

剛の言葉にが喜ぶ。

「スクアーロ。バシバシ鍛えてやってください」
「あ゛ぁ」
「じゃ、行ってくるな」

山本とスクアーロは竹寿司を出て行った。

「ご飯を食べつつ、交流もしていく…。
 ヴァリアー一の常識人っぽいなー…」

は閉じられた竹寿司の扉を見て呟いた。

「あぁでも…ベルとかといると一番苦労しそうだ」


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