ライク オア ラブ
高校2年
学校の裏庭、そこに一組の男女の生徒。となれば、どういう状況なのか、大体の予想はつくだろう。
「あ、あの…………。ずっと、好きだったの、よかったら、私と付き合って下さいっ!」
真っ赤に頬を染めて、勇気を出して、気持ちを打ち明けた女子生徒。
「俺、野球のことで精一杯なんだ、ごめんな」
対して、告白された男子生徒は、困ったような表情で、告白を断った。女子生徒は、踵を返し、走り去り、その場には男子生徒だけが残された。
教室では、いつものメンバーで集まって、雑談をしていた。
そこへクラスメイトの女子が、山本に近づく。
そして、彼女は、山本に一通の封筒を差し出した。無地ではあるが、淡い桃色の封筒。
「何だ、ソレ?」
意味の分からない山本は、直球で尋ねる。
尋ねられたクラスメイトも、直球で返事を返した。「ラブレター」だと。
「「「ラブレターッ?!」」」
何事でもないように言った言葉に、その場にいた数人は驚きの声を上げた。
言われた山本は驚いて目を丸くし、何も言えない。
はというと、驚いてはいるようだが、何も言わず、ただ見ているだけだった。
山本にラブレターを渡したこのクラスメイトには、ちゃんと彼氏がいるはずなのだが。
そう思った面々は、矢継ぎ早に質問を浴びせた。
彼氏と喧嘩したのだろうか。もしくは飽きた?! それとも、浮気か!? と、さまざまな可能性を指摘してみる。
が、ことごとく否定される。
「何があったか知らないけど、ちゃんと仲直りした方がいいよ」
ツナは、きっと、喧嘩まではいかなくても、彼氏との間に、何か問題があっての行動だと思い取り成した。
しかし、喧嘩はしてないし、今もラブラブだと言われ、彼女はそのまま、山本に「ラブレター」を差し出す。しかし、山本は中々受け取ろうとしない。
なかなか受け取らない山本に、彼女は焦れる。そして、さっさと受け取れと言う。
山本としては、困る。目の前のクラスメイトを嫌ってはいないし、むしろ仲がいい方だとは思うが、恋愛となると別だ。
山本にだって、気になる子くらいいる。
「ラブレターなんだよな?」
と問えば、「愛の告白が書いてある」と返ってきた。
「そういうのは、俺じゃなく……」
ラブラブだという彼氏に言え、と言おうとして、さえぎられた。
山本の言葉を遮り、「たぶん」と彼女は答えた。
意外な言葉に、一瞬皆の動きが止まる。
彼女は、自分からのラブレターだとは言ってない。自分は橋渡しを頼まれただけで、いうなれば、配達員だという。
それを聞き、ツナは深く溜息を吐いた。修羅場なんて起こったら、とんでも無いことになる。この女生徒の彼氏とは知り合いだし、知り合い同士の修羅場なんて、みたくもない。とりあえず、そういう事態は避けられた。といったところだろう。
「なんだ、そうだったのか」
山本は若干、ホッとしたように笑う。半ば、押し付けられるように、山本は手紙を受け取った。
山本を中心に、その手紙をどうするんだという議論が始まった。
その様子を、はもやもやした気分で見ていた。
ラブレターを持ってきたクラルメイトは自分の幼馴染で、彼女が浮気なんてするような子じゃないと知っている。いくら彼氏と喧嘩したとしても、そういうことはしない子だと、は十分知っていた。
だけど、拒否の言葉を返さなかった山本にイラついた。
は、山本の彼女でも何でもないが、面白くないことには違いない。さらにいえば、山本は皆に優しい。だから、山本を好きになる子も多い。誰にでも同じように笑顔を向ける。それを見ると、やっぱりイラつく。
教室移動からの帰り、は廊下で呼びとめられた。
「ごめんね、さん」
「いいけど、早く終らせてくれる」
「あのね。…………えっと……その……」
彼女の雰囲気で、何に関することかは分かる。恋する女の子は可愛いなと思う反面、イラっとくるものもある。
「山本君の、好きな女の子のタイプとかって……知らないかな?」
ビンゴだ。
彼女は山本のことが好きで、仲のいい、野球部マネのに白羽の矢を立てたのだ。以前は、こんな感じで、よく山本と付き合っているのかと聞かれた。
最近は、そういうこともあまり聞かれなかったのに、やはり、甲子園と文化祭効果だろうか、山本の人気は右肩上がりだ。
「私も詳しく知らないけど、明るい子じゃないかな」
と、かなり適当なことを答えておく。
これが山本の好きなタイプだとは思わない。しかし、山本のことだから、明るい子が嫌いではないはずだ。あの爽やかスポーツ少年は、何を置いても野球のことが真っ先にでてくるのだから。
「じゃ、もういい?」
「う、うん」
言う事は言ったということで、は早々に教室に戻る。
そして、戻ると、やはりいつものメンバーで固まっている。
「おかえり、。遅かったわね」
「いやー、山本の好きな子のタイプ聞かれてさ」
花に出迎えられ、は先ほどのことを話す。
そして、そのまま話題を山本に振る。
「で、山本。実際の所、どうなの?」
「どう……って言ってもなー」
山本はの質問には答えず、ただ笑っている。
「ちゃんはなんて答えたの?」
「明るい子って答えた」
「無難な答えね」
京子の質問に答えれば、花と京子は納得したように頷いている。
「最近は、こういうことなかったのに、うざい。山本って、意外とモテるんだよね」
は、如何にも迷惑ですといったオーラを出す。
山本がモテるのは中学の頃からだ。見た目もいいし、皆に優しい、そして、甲子園のヒーローといえば、モテないはずがない。
「モテるのは、獄寺だろ?」
本人に自覚がないということは、周りにとっていいのか悪いのか。からかう言葉にも、いつも笑って返す山本は、さすがだとしかいいようがない。
「それで、山本の好きなタイプって誰なのよ?」
気になっていたのか、逸れそうになった話題を花が戻した。
「好きなタイプっていわれてもなー。野球の話ができたり、バッティングセンターに付き合ってくれたりするヤツがいいな」
やはり野球がらみで、しかも、それは彼女というよりも、女友達だろうというツッコミは、あえてせずにスルーしておく。
「でも、それって、ちゃんみたいだね」
「へ?」
いきなり登場させられ、は驚いた。たしかに、野球の話はするし、バッティングセンターも好きだ。だが、まさか、それで山本の好みのタイプ=などとなるとは思わなかった。
「なんで、私?」
「だって。山本君と一番仲いい女の子って、ちゃんでしょ?」
いつもこのメンバーだから、以外だって山本と仲がいい分類にはいるだろう。しかし、考えてみれば、教室で顔を合わせ、部活で顔を合わせ、そして、帰りも一緒に帰っているとなれば、一番仲がいいと言われるのも納得できる。
「と山本が付き合ったら、上手くいきそうだよね」
ツナは常々思っていたことを声に出してみた。それは、皆が思っていて、且つ言う機会の無かった言葉。
「…………だ、そうですが?」
ツナの言葉を受け、は山本に視線を投げかけながら、話を振る。
山本は何か考えているようで、反応がない。
「山本?」
「……あ、ああ、悪い。俺とか……それもいいかもしんねーな」
「は? いや、無理に話に乗らなくても」
そんな気なんてないのに、付き合うなどと言われても嬉しくない。
高望みする気はないが、それでも、やはり、仕方が無いからとか、ノリでというものではなく、ちゃんと想ってくれてるから付き合うというのがいい、と思う。
「無理じゃねーよ。俺、のこと好きだしな」
山本の言葉に、皆が固まった。動じていないのは、本人だけ。
「えっと、山本、こう言ってるけど……」
「山本。友達って意味か?」
山本なら、そういう展開もありえると、珍しく獄寺が話に入る。
「って、それはねーか。度々の名前が会話に出てくるからな」
「獄寺っ!」
獄寺の言葉に、山本は珍しく慌てる。
「ああ、そういえば、よくのこと話してるよね」
獄寺の言葉に、ツナも思い出したように加わる。
のことを、ツナや獄寺との会話に頻繁に出しているという意外な事実が分かったところで、次の注目はだ。
「皆の視線が痛ぇ」
仲良しグループは勿論のこと、他のクラスメイトも、冷静を装いながら、耳はダンボ状態だろう。殆どが盗み聞きしていることを隠そうともせずに、の発言を待っている。
無理もない、何だかんだで、このグループは皆に注目されているのだ。そして、あの山本が告白したのだ、返事が気になるに決まっている。
「で。どうするの、は」
花に言われ、は山本を見る。
成り行きのような展開といえども、一応告白とも取れる発言は聞いた。
「うん、とりあえず、よろしく」
「おう! よろしくな!」
肯定の言葉が返ってきて、山本は嬉しそうに笑う。 その、すごく嬉しそうに笑う山本に、少しドキッとしたことは、なんだか、悔しいから、誰にも言わないでおこうと、は密かに思った。
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