甘い搭より優先したいこと

高校二年




『来て、見て、食べて下さい。秋のスウィーツフェア、パフェま…』
「あ。宿題」
CMの途中では早々にリビングから引き上げた。
主なターゲットを高校生としたそのCMは、ターゲットど真ん中の
高校生である彼女の気を引くことは出来なかった。


「なんか腹減ったなー。
 ファミレス寄ろうぜ」
「うん」

山本の提案には頷いた。
この日は、いつも一緒に帰っている友人の部活が休みで、
山本とは二人で帰路に着いていた。
そして育ち盛りの高校生は部活を終えると腹が減る。
そこで、その小腹を満たすためファミレスやカフェに向かうのだ。

「いらっしゃいませー。
 お二人様ですねー、こちらへどうぞー」

高校にほど近いそのファミレスは学校帰りの学生もいて、店内は賑わっていた。
席に落ち着くとは鞄の中からノートとペンを取り出し、机に広げた。
パラパラとページを行ったり来たりして、時々止まりながらペンを走らせる。
彼女が書いているのは部活ノートだ。
気づいたこと、前回との変化などを記し、練習メニューの参考に活用される。

「…何か頼むか?」
「カフェオレ〜」

置かれたメニューに目を通すことなく、が答えた。
部活帰りにファミレスに寄ると大体そうだ。
小腹を満たすのは山本で、は飲み物を頼む。
同じ部活でも運動量は全く違う。
とて小腹が空いていないわけではないが、
山本の比ではないし、帰宅後の夕食でリカバー出来る。

「………」

真剣な表情でノートを書くに山本は苦笑した。
折角の放課後プチデート的なものが展開されているのに甘い空気が皆無だ。
自分達の関係としては、らしいと言えばらしい。
付き合い出してもあまり変化のないそれが何だか可笑しかった。

「…栗とさつま芋と柿と葡萄と林檎と梨と苺とチョコとブルーベリーと抹茶と柑橘系とヨーグルトとメロンとどれが良い?」
「…今の気分はブルーベリー」
「ブルーベリーな」

の返事を聞くと山本は店員を呼ぶためのチャイムを鳴らした。

「?」

山本の質問の意味が分からなかった上に尋ねられた事柄も、
ブルーベリー辺りからしか聞いていなかったが、
彼自身が特に気にした様子がなかったので、は首を傾げつつも
そのまま視線を手元に落とし作業を再開した。

暫くして店員が注文した物を届けにきた。
席に座っているのが男女のため、店員はカフェオレを山本の前に、
ブルーベリーのパフェをの前に置いた。

「どうも」

店員がその場を去ると山本はその配置を交換する。

「冷めるぜ?」
「あぁ。って、うわっ」

ようや目線を外したが机に置かれた物を見て驚く。

「カフェオレだろ?」
「じゃなくて、パフェ?」
「パフェ祭って書いてたからな」

ブルーベリーのパフェをガン見しながらが尋ねると山本は笑って答えた。

「何でブルーベリー…」
が言ったから」

そう答えると山本はパフェを一口食べる。

「…そう」

は手元に置かれたカフェオレに手を伸ばす。
カフェオレを飲みながらも彼女の目線はノートに向けられている。

「何か発見あったか?」
「んー…。まぁ、個別にちらほらあったかなぁ…」

トントンと軽くノートをシャーペンで打ちながら答える。
そしてまた、ペンが走る。

「…
「ん?」
「はい」
「おぉぅ」
「…引っかかった」
「?!」

山本の言葉には、はっとなった。

「食べたなっ」
「…コノヤロウ…」

嬉々とした顔で山本が言うとは思いきり顔を顰めて呟いた。

「油断した…」

ペチンとは自分の額を掌で軽く打った。
それを見て山本は満足そうに笑う。
山本がを呼び、それに反応した彼女に間髪入れずに
パフェの乗ったスプーンを差し出して、『はい』と促すと
は素直にそれを食べたのだ。
友人達ともこういったやり取りはある。
それ故に反射的に食べてしまったのだ。

「まーまー、たまには良いじゃねーか」
「お前が言うなよ」

嬉しそうにパフェを食べる山本を見ては怒った。

「それ食ったらさっさと帰るぞ」
「はいよ」

既に温かさを失ったカフェオレを飲みながら言うと山本が頷く。

「…ったく…」

笑う山本から目を逸らしながらは小さく呟いた。
その顔がやや赤かったのは山本しか知らない事実だ。

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