異国の客人
高校一年
竹寿司でバイトを始めて早2ヶ月。与えられる仕事は少ないなれど、
竹寿司アルバイターとしては、日々汗を流していた。
野球部への転部を境に、山本や雇い主でもある剛とも仲良くなってきている。
ガラッ
「へいらっしゃい」
軽い開閉音と剛の声。
「お、久々だね。
座布団5枚、カウンター席に積んでくれるかい?」
「はい」
裏で、皿を片付けていたに声がかかる。
剛に言われ、カウンター席用の座布団を5枚抱えては裏から出てきた。
「いらっしゃいませ」
軽く一礼をして顔を上げる。
「…」
視界に入った人物にの動きが止まる。
まず目を引いたのは、光り輝く金髪の上に載っているシルバーの王冠だった。
「…」
遠目でもわかる細工の細やかさ。曇りない光を放つ銀。
存在を主張しているが、王冠と金髪の人物との違和感はまるでない。
馴染んでいる。其処にあるのが当たり前のように。
そう、言うならば…。
「…王子…」
「あ?」
が呟いた単語に王冠を戴いた金髪の彼が反応する。
「あぁ、何でもないです」
我に返ったは慌てて手にしていた座布団をカウンター席の一角に置いた。
「見ない顔だね」
「?!」
聞こえた声には驚いて振り返る。
すると先程は王冠に目を奪われて視界に入らなかったが、
金髪の彼が一人の赤ん坊を抱えていた。
「何、こいつ?」
すると金髪の彼が言葉を続ける。
「あぁ、バイトだよ」
剛はにこやかに答えた。
「…」
は金髪の彼と、彼が抱える赤ん坊を見た。
(…こいつ等こんな格好でホントに目ぇ見えてんのか?)
などというツッコミが脳を過る。
それもそうだろう。
金髪の彼は目が完全に隠れるほど前髪が長い。
そして抱えられた赤ん坊もすっぽりとフードを被っている。
「前来た時から大分日が空いてるからな。
今年の4月から雇ったんだ」
剛が席に着く金髪の彼と、座布団の上に座る赤ん坊に話す。
「ふぅん」
金髪の彼がちらりとに目を向ける。
実際は目が隠れているので、目を向けたかどうかは定かではない。
「初めまして。
只今お茶をお持ちしますね」
はそう告げて一度、裏に下がった。
「…なんか王子って単語が似合うなー…」
お茶の準備をしながらが呟く。
「それにしても、あの赤ん坊スゲー喋る…」
そして気になる点を口にする。
金髪の彼が連れていた赤ん坊。
あのナリが実年齢と比例するというならば、年齢にそぐわない程よく喋る。
「…リボーンみたいだな…」
自分の身近にいるスーツを着こなした赤ん坊。
彼のような赤ん坊が他にもいるとは。
世間とは広いようで狭いんだなと、は思った。
「おぉっと」
物思いにふけっていたせいか危うく湯呑にお茶を注ぎすぎるところだった。
「お待たせ致しました」
はそれぞれのお茶を置く。
「じゃぁ、次そのピンクの。えーっと…トロ?だっけ?」
「お。覚えたな」
金髪の彼がネタの名を口にすると剛は嬉しそうに笑う。
「当然。だって俺王子だもん」
ししっと得意そうに金髪の彼が笑う。
「よく言うよ。去年すっかり忘れてたくせに」
「仕方ねーじゃん。滅多に日本に来ないし」
赤ん坊の言葉に自称?王子は平然と答える。
ガラッ
「ただいまー。
って、お前等!」
「あ?」
「ん?」
開閉音と共に響いた声に二人が振り返る。
「おぉ、タケシ」
剛が軽く手を上げた。
「何で日本にいるんだ?」
「僕等が何処にいたってかまわないだろ?」
山本の言葉に赤ん坊があっさり答える。
(それはそうだろうな。個人の自由だ)
は心の中で合いの手を入れる。
「ツナに用か?」
「僕はただの付き添い。金出すって言ったからね」
赤ん坊が答えて金髪の彼を見る。
「へ〜。美味いか?」
山本は金髪の彼を見て尋ねた。
「マズけりゃこない。だって俺王子だし」
(どんだけ王子主張してんだよ。ホントに王子なのか…?)
は心の中でツッコミを入れた。
そしてこのツッコミを口に出せない歯痒さを感じつつある。
「あれ?、今日バイトだったのか」
「今それを言うか」
声に出せないツッコミを全てぶつけるような速さでは山本にツッコミを入れた。
「スクアーロは来てないのか?」
山本がやや目を輝かせて尋ねる。
「今回はプライベートだから来てないよ」
「そっかぁ…」
赤ん坊の返答に残念そうな顔をする。
「…」
(スクアーロって誰だ…?)
は疑問符を浮かべた。
「タケシも突っ立ってないで、手伝え」
「おう」
剛の言葉に山本は頷き、裏へと移動する。
それを機に、も裏へと下がった。
「山本、山本っ」
「ん?」
は仕事着に着替える山本に声をかける。
「あの二人誰?!」
ようやっと聞きたかったことを口にした。
「金髪がベルフェゴール。ベルな。で、ちっさい方がマーモン」
「ベルとマーモン…」
言われた名前を確認するようには口にする。
「ベルってやたら王子王子言ってるけど、あれ自称?」
「いや。実際王子らしいぜ?よく知らねーけど」
の疑問に着替えながら山本が答える。
「リアル王子か…」
だからあんな見るからに高そうな王冠載せてるのか…。
はふむ、と考える仕種をする。
「…カッコイイな…」
「…」
呟かれた言葉に山本が自分の心臓辺りを見る。
「どうした?」
「いや、何でもねぇ」
に尋ねられ、山本は思わず頭を振った。
「タケシー。来る時、赤身持ってきてくれ」
「おー」
山本は冷蔵庫から赤身を取り出すと表へと出ていった。
「どうぞ」
機を見計らっては新しいお茶を彼等の元へと運ぶ。
「何か用?」
「…え…」
金髪の彼、ベルの疑問にの口から言葉が零れる。
「さっきからずっと見てたの気付いてないとでも思ってんの?」
そう言って出されたアジを頬張る。
「あぁ…スミマセン…」
は謝った。
「王子に会ったのは初めてなんで」
日常生活を過ごしていて王子に会うことなど一生に一度ない人の方が多いだろう。
その珍しさはもちろんある。
そして彼の頭に載っている王冠も。
お茶を運んだ時にちらりと見はしたが、あまり凝視もできない。
「それならこっちは?」
ベルは赤ん坊、マーモンを見る。
赤ん坊でこれだけ喋るのは珍しいというのを言いたいのだろうか。
「マーモンはあんまり驚かねーかもな」
山本が合いの手をいれる。
「?」
ベルは彼を見た。
「は俺達のダチだから小僧のこと知ってんだ」
「小僧…あぁ…あいつか…」
マーモンは思い当たったように小さく呟いた。
「…」
この様子を見ると彼等はリボーンを知っているということだ。
総じて言えばツナの知り合いでもある。
相変わらず無茶苦茶な交友関係だなと、は思った。
「…ベルさんは何処の王子なんですか?」
頭をよぎった疑問をは口にする。
「言ったら世界が動くから言わない。
あと呼ぶならベル。俺、王子だし」
「…」
世界が動くほどの国の王子なら尚更敬称がいるだろ…は心の中で突っ込んだ。
「ツッコミなしか?」
「んな簡単に突っ込めるか」
山本の言葉には思わずツッコミを入れた。
「ツッコミくらい入れたって取って食ったりしないよ。
日常でないわけじゃないし…」
マーモンがお茶をすすりながらを見る。
「…マーモンさん」
「マーモン」
「あぁ、はい」
訂正されては頷いた。
「あぁ、けど…」
思い出したようにマーモンは寿司を頬張るベルを見る。
「取って食ったりはしないけど…。
気に入らなかったら切り刻まれるかもね」
「命がけ?!」
は驚いた。
「ししっ。速度はえー」
ベルが楽しそうに笑う。
「のツッコミはツナの速度を超えるよな」
「それ、褒めてんの?」
山本の言葉にが苦い顔をする。
「それにしても、カッコイイですよね…」
はベルを見た。
「お。ちゃんヒトメボレかい?」
「えっ!いやっ!」
剛の言葉には慌てる。
「王子だから当たり前」
ベルは何でもないことのように言って笑みを浮かべると
寿司ネタを指差した。
「次その色が薄いやつ」
「これはカレイって言うんだ」
「じゃぁ、それ」
その後も二人は値段の大小関わりなく、好みの寿司を片っ端から食べていった。
「支払いはベルだよ」
「分かってるって」
レジの前に立つと念を押すようにマーモンがベルに言う。
「じゃぁ、これ」
ベルは財布から一枚のカードを出した。
「うわっ」
差し出されたカードを見てが驚く。
「黒いカードだろ?珍しいよな。俺も驚いた」
のリアクションを見て山本が笑う。
「そういう意味じゃねー…」
呆れた顔では山本を見た。
「ししっ。だって俺、王子だもん。
一括で。サイン」
「一番説得力ある発言ですね」
は恐る恐る受け取りながらクレジットカードの手続きを済ませる。
「えっと、では、こちらにご署名を」
「ん」
流れるような字でベルは自分の名前を書いた。
「では、こちらが控えになります」
「彼はブラックカードが何か知らないの?」
ベルに抱かれたマーモンが山本を見る。
「黒いカードだろ?」
直訳する山本を見てマーモンは軽く息を吐いた。
「そうそう持てるもんじゃないんだよ、あのカード」
財布にブラックカードを仕舞うベルを見ながらが簡単に説明した。
「スゲー金持ちってことか?」
「…もの凄く簡単に言うとね…」
山本の発言には呆れながらも頷いた。
掻い摘んで言うと確かにそうなる。
「それじゃ、ごちそうさま」
ベルは扉を開け暖簾をくぐる。
「ごちそうさま」
マーモンも軽く挨拶をした。
「ありがとうございましたー」
「また来てくれよっ!」
「楽しみにしてるぜ〜」
、剛、山本がそれぞれ声をかける。
「すごいお客さんがくるんですね、此処」
は剛を見た。
「あぁ。けど、聞いた話じゃ、ツナ君の知り合いなんだろ?」
「そうだぜ」
剛に聞かれ、山本は頷いた。
「いやー、でも王冠も良いけど、
ベルもカッコイイよなぁ…マーモン可愛いし…」
は二人が出て行った扉を改めて見る。
「これはタケシに、ライバル出現か?」
「何の話だよ、親父?」
剛の言葉に山本は首を傾げた。
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