小僧と話をした

高校二年




「調子はどうだ?」
「小僧っ」

河川敷で自主練をしていた山本にリボーンの声がかかる。

「順調だぜ。怪我もしてねーし、甲子園も優勝したし」
「後は来年の春と夏だな」

爽やかに笑う山本にリボーンが頷く。

「あぁ。そしたら全6回。制覇だ」

キュッとバットを握る手に力を込める。

「これでの願いも叶うか」
「そうだな。アイツの覚悟に応えられる」

入学して早々に所属していた部に退部届を提出し、野球部に転部した
その時、彼女が言った『全6回の優勝』それが今、手の届く距離にある。

が言った目標が、気がついたら俺達野球部全体の目標になってるんだよな」

山本はその場に座りながら言う。
春のセンバツ、夏の甲子園。
優勝を重ねるごとに定まっていく自分達の目標。
ここまできたら、全部勝ってみせる。
そして今年で6回中過半数の4回目の優勝を果した。

「ここまで立て続けにこれるとは思ってもみなかったけどな…」

ゴロンと寝転がって山本が呟く。

「誰も思ってなかっただろうな」

リボーンも山本の隣に寝転がる。
野球部員が思い描く未来としては確かにある。
夢の舞台で優勝すること。
春の大会、そして夏の大会。
高校球児で掲げていないわけがない。
それでも、目標を掲げること、夢に向かっての努力、そして目の前に迫る現実。
掲げた目標が叶わないことの方が多い。
優勝出来るのは一校だけだ。
それが今、並高には4つある。

「負けらんねー」

山本は決意を新たにするように拳を握った。

「…山本。お前、ツナ達のこと好きか?」
「何だ?急に」

突然変わった話題に山本が首を傾げる。

「いいから答えろ」
「…?好きだぜ。ツナはスゲーし、獄寺は楽しいし」

首を傾げながらも山本は素直にリボーンの問いに答える。

「そうか…それじゃぁ…」

リボーンは山本の身近にいる友人達の名を上げ、同じように尋ねていった。
山本も彼の問いを不思議に思いながらも答えていく。

「…はどうだ?」
「好きだぜ。何考えてるか分かんねー時あるけどな」
「そうか…」

山本の解答にリボーンは小さく答えた。

「それがどうかしたのか?」

屈託のない顔で山本はリボーンに再度尋ねる。

「いや…なんとなく思っただけだ」

彼はフルフルと軽く頭を振った。
山本は天然な所がある。
いざという時の勘の鋭さは目を見張るものがあるが、それ以外は天然な部分が多い。
彼が口にする感情の言葉にどれほどの意味があるのかがよく分からない。
彼の意志が、どれほど入っていて、彼にその自覚があるのかどうか。

「野球部のほうはどうだ?」
「相変わらず走り回ってるぜ。細かい所とか気づいてくれてるし。
 俺達もスゲー助かってる」

言いながら、ふと山本の表情が変わる。

「無理してなきゃいいんだけどな…」
「その辺は自己管理できる奴だろ?」
「まぁ、そうなんだけどさ…」

やや不安そうに山本は呟く。

は何も言わねーからな」
「…気になるのか?」

リボーンは山本に尋ねる。

「大事な仲間だからな」

ははっと明るく山本が笑う。

「…」

その言葉に嘘はないだろう。
見せる笑顔にも嘘はないだろう。
やはり彼が無自覚なだけなんだろう。

「それにしても、やけにのこと聞いてくるな、小僧」
「…そうか?」

ふっと誤魔化すようにリボーンは笑った。
こんな時に見せる彼の勘は本当に鋭い。

「俺とは仲が良いからな」
「確かに一緒にいるのよく見るのな。
 なら次は俺から質問な」

リボーンの言葉に楽しそうに山本が言う。

といつも何話してんだ?」
「ただの日常会話だ」

山本の問いに素早くリボーンは切り返した。

「なんだ、そっか」

あっさりと山本は頷いた。

「何でそんなこと聞くんだ?」
「んー?が何考えてるか分からないってさっき言ったろ?
 だから小僧ならアイツと色んな話してるのかなって思ってさ。
 普段言わねーようなこととか」
「…」

もちろん聞いている。
山本を見ながらリボーンは思った。
日常会話の時もあるし、普段言わないの感情についても話をする。

「…そんなに気になるか?」
「なんでか分かんねーけどな」

リボーンの問いに苦笑いをしながら山本が答えた。

「無自覚は面倒だな」

聞き取れないほどの声でリボーンは呟いた。
山本のその言葉が何処からくるのか、どの感情からくるのか、
彼は自ら自覚する日が来るのだろうか。
最も、彼の場合、本気で仲間を思っての感情からきている可能性もあるが。

「あぁ…そっか…」
「ん?」

妙に納得したような声が聞こえてリボーンは山本を見る。

にはいないからか」
「?」

意味が分からずリボーンは彼の言葉を待った。

「ほら、笹川とか三浦にはツナがいるだろ?いざって時に頼りになるとかそんな感じの。
 にはそういう存在がいないだろ?だから気になんだ」
「…」

納得!という顔をしている山本を何ともやるせない表情でリボーンは見る。
無自覚とは本当に面倒なものだ。面白いから構わないが…。

「ならその役は俺がやってやるかなっ」

ニヤリと笑いながらリボーンは立ち上がった。

「小僧が?」

山本は起き上がってリボーンを見下ろす。

「俺はと仲が良いし、俺ならお前も心配いらねーし。万々歳じゃねーか」

何処か楽しそうにリボーンは言うが、聞いている山本の表情がやや変わる。

「それだと、俺の役目がなくなるだろ?同じ野球部として」
「山本にはツナ達がいるだろ?ダメツナが」
「そうだけど…」

リボーンの言葉に山本の言葉が弱まる。

「なら勝負でもするか?」
「え?」
「どっちにその役目ができるか」
「面白れー」

元々勝負ごとが好きな山本が笑う。
これで少しは山本の感情に自覚がつけば良いんだけどな。
リボーンはそんなことを思った。

「っと、そろそろ帰るか。送るぜ、小僧」
「おう」

返事をするとリボーンはひょいっと山本の肩に乗った。


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