並盛高校文化祭

高校二年




突如現れた代打教師リボ山のもと、のクラスの模擬店はツナをボスとするマフィア喫茶と相成った。
半ば強制的な雰囲気ではあったが、期限が迫っていたことと面白そうな事が好きな年の盛りというのもあり、それはすんなりと受け入れられた。
そして、『マフィア喫茶』と名乗るのだからボスを決めなくてはならない。と代打教師リボ山は語り、獄寺が当然の様にツナを推し、これも半ば強制的に決まったのは言うまでもない。

一般客を迎える文化祭二日目。
マフィア喫茶は盛況だった。

「おーい、ロシアンルーレットと組織の誘惑1つ!あとマフィアの掟2つと誓いの杯1つ!」
「はーいっ!」

簡易厨房に顔を出した山本の声が響く。
その厨房では達が忙しそうに動いている。

「こっちもオーダー、ファミリーの絆2つと組織の裏切りとファミリーの交渉1つだ」
「わかった」

獄寺の声にクラスメイトが答える。
変わったメニュー名を羅列しているが内容は一般的に売られているものを使っているので、大したことはない。

「できた!持ってって!」

伝票が乗ったトレイにクラスメイトが目的の物を乗せた。

「お、サンキューな」

それを受け取り山本はフロアへとまた消えていく。
因みに
ロシアンルーレットはシュークリームに通常の物と刺激物を入れた物を混ぜる定番メニュー。
組織の誘惑は苺クリームのケーキ。
ファミリーの絆はロールケーキ。
マフィアの掟はジンジャーエール。
誓いの杯はレモンスカッシュ。
組織の裏切りはファンタグレープ。
ファミリーの交渉はファンタオレンジ。
厨房にもメニュー一覧にイコールで対象の飲み物と食べ物が書かれている。

「はひっ!素敵です!ツナさん!!」

賑わう店内に聞き慣れた声が聞こえた。

「ランボさんも来てやったもんね!」
「イーピンも遊びに来た!」
「隼人、似合うじゃない」
「ゲッ!!姉貴!!」

途端に店内は騒がしくなる。

「たっだいまっ!」
「戻ったよ」

今度は厨房側の扉が開く。

「お帰りっ」

チラシ配りに行っていた花やクラスメイトが戻ってきたのである。

「盛況みたいね」

中の混み具合を見て花が感想を述べる。

「注文言うぞ〜。ファミリーと同盟連合1つと組織の休息4つ!」

クラスメイトが2人ひょこっと顔を出して告げる。

「こっちはボスへの忠誠とボスとの絆1つだ!あ、飲み物は安らぎの方で」
「きました和食!」
「よっし!頑張ろ!」

和食の注文に厨房に気合いが入る。
和食と言っても彼女達が手がけるのは寿司だ。
因みに
ファミリーと同盟連合はチラシ寿司(大)
ボスへの忠誠は握り寿司セット(白身魚中心)
ボスとの絆は握り寿司セット(光り物中心)
組織の休息は緑茶(温)
他にも
ボスと特殊部隊は握り寿司セット(赤身中心)
ボスと仲間達は握り寿司セット(全種混合)
組織の安らぎは緑茶(冷)
等がある。
和食は竹寿司あっての品揃えだ。
ケーキなどについてはラ・ナミモリーヌの協力がある。
『マフィア喫茶』の名前とメニュー内容。
値段の割に豪華な食事。
マフィア=ゴッドファーザー=黒。そんな発想から生まれた
黒を基調にまとめられた内装。
ボスは白スーツ、他の面々は黒スーツという徹底ぶり。
そして方々で有名なクラスメイト達。
色々な要因が手伝ってツナたちのクラスは大盛況となっていた。

「それじゃー、後よろしく」
「うん」
「お疲れー」

交代でやってきたクラスメイトに軽く挨拶するとはクラスを出た。

「さてと…」

ようやく得た自由時間をどうするか廊下を歩きながら考える。
いつものメンバーの中では最後だ。
友達はそれぞれ思い思いの人と過ごしているはずだ。
ツナ達と連絡を取っても良いが総勢8人で移動するのもどうかと思う。
個人的にはツナと京子ちゃんが二人で回っていたら嬉しいが、模擬店にビアンキ達もやって来たのだからその可能性は難しいだろう。
そしてなによりの基本は少数精鋭型だ。

「つか、私写真撮ってねぇ…」

制服のポケットに入っているデジカメの存在を思い出し、呟いた。
はイベント事があると時々カメラを構え、その写真を新聞部に提供したり資料保存ということで風紀委員に提供したりもしている。
今回もそのつもりだったのだが、思っていた以上に模擬店が忙しかったので、ろくに写真を撮れていないのだ。
学校関係者メインの文化祭一日目と一般メインの文化祭二日目とではそれぞれ違う面がある。

「んー、どうしようかな…。あ、リボーン」

の視界に黒スーツ黒帽子の赤ん坊が映った。

「ちゃおっす」
「ちゃおっす!」

リボーンの前にしゃがみとりあえず挨拶を交わす。

「なんだ、お前一人なのか?」
「うん。いつものメンバーじゃ休憩最後なんだ」
「そうか。なら俺と周るか?」
「え?いいの?ビアンキに怒られないかな?」
「他に本命のいる奴に怒ったりはしねぇ」
「…じゃぁ乗ってよ」
「悪ぃな」

やや間を空けて提案された言葉に頷きリボーンはの肩に乗った。



「…あのっ」
「ん?」

校内を徘徊していたら後ろから声をかけられた。
弾みで振り向いて見たらどうやら自分に向けられた声のようだ。
しかし、見覚えのない女の子だった。2人並ぶどちらにも面識はない。

「並高野球部の人、ですよね?」
「…そうだけど」

発せられた言葉からして十中八九他校の生徒だ。
そして予想される疑問文も幾つか自然と頭の中に出てくる。

「山本君って、彼女とかいるんですか?」

やっぱりか。とは思った。
一年のとき甲子園で優勝した辺りからこのテの質問は多かった。
がマネージャーであるというのもあるし、山本と同じクラスだというのもあるし、中学から付き合いがあるというのもある。
そんな情報は出所なんて分からないほど直ぐに流れ直ぐに広まる。
ここ最近はなかったが二年になった今年も甲子園で優勝した。そしてこの文化祭だ。声を掛けられないわけがない。
正直この問答に付き合うのは面倒だった。かといって下手に突き放すわけにもいかない。

「いないんじゃないかな?そんな話は聞かないから。部員の中でも、そういう話は聞いてないよ」
「そうなんですか!良かった!!ありがとうございます!」

の答えを聞いて満足したのか女の子2人は走り去っていった。

「よく質問されるな」
「慣れたけどね」

廊下を歩いているうちに何度か生徒に声を掛けられた。並高の生徒にもそうでない生徒にも。
彼女の有無から始まって好きなタイプ好きなもの、本人に聞けばいいだろうとも思うがそれが出来ないからここに来るのだろう。それに適当ではあるが無下にならない程度に答えていった。
とどめの質問はが山本と付き合っているかだ。それを否定したところでとりあえず波が終った。

「お前等が付き合ったら解決しそうだけどな」
「その気がないならごめんだよ」

リボーンの質問には早口に答える。

、お前…」
「あ、ワタアメ食いたい!エスプレッソあるよ、リボーンもどう?」

近くにある店を指差してが言う。

「…俺はグルメだぞ」
「ここの子、リボーンがよく行ってるコーヒーショップでバイトしてるから淹れるの上手いんだってさ」
「不味かったら承知しねーぞ」
「はいよっ」

楽しそうには答えるとワタアメとエスプレッソを店主に頼んだ。

「お前の部活も盛況じゃねーか」

窓を見ながらリボーンが声を出す。

「行ってみる?『打倒!山本』」
「面白そうだな」




グラウンドに出ると出店から少し離れたところに『現在、打倒!山本!開催中!』と書かれた看板が置かれていた。
が所属する野球部は、ストライクゾーンを九分割した的にボールを投げるか打つかして当てる催しをやっている。打ちぬいた枚数に応じて商品が渡されるのだ。
そして、目玉は山本がいる間は同時に『打倒!山本』を開催している。
ルールは簡単。彼が投げる球を打つか、彼を三振にするか。
勝利すると豪華商品を得ることができる。それにはソフトだけでなくゲーム機本体なのどもある。
正に山本に敵う者がいない前提の催し物である。
それほど彼の活躍は大きく、彼の実力があるということだ。

「お、ー」

部員が軽く手を挙げた。

「何?来たのか?」

山本が走ってやってくる。

「助っ人に来てくれたのか?」
「冗談。朝手伝ったし。自由時間だよ」
「お、小僧も一緒か」

山本がの肩に乗ったリボーンを見つける。

「まぁな、デート中だ」
「リボーンに声掛けられたんだよねー」

ニヤリと笑うリボーンにが頷く。

「手伝わないならやってけよ」
「内輪に金を落とさせるか」
「まぁまぁ」

ははっと笑いながら部員が提案した。

「…よし、良いよ。やろう。『打倒!山本!』やってあげるよ」
「マジで?」
「おう。あいつの投げげる球打ってやんよ」
「おっしゃ!山本準備しろ」
「分かった。でも手加減しねーぞ?」
「たりめーだ」

が不敵に笑って見せると山本は所定の位置へ向かった。

「勝算はあるのか?」
「まぁ、ね」

肩から降りながら尋ねるリボーンには立て看板を見ながら笑う。

「…あぁ、成る程な」

彼女の勝算を理解したように彼も笑った。

「じゃぁ、ワンアウト勝負な」
「ん」

バッターボックスに入るとはバットを二回振り軽く伸びをしてから構えた。
一球目。
放たれた球はがバットを振ることもなくミットに収まった。

「こんな速いんですね」
「そこに入ることなんてないから驚いたか?」

キャッチャーの先輩に言うと笑顔が返ってくる。

二球目。
ブンッ
空を切る音とミットにボールが収まる音が響いた。

「遅れてるぞ。でもってあと一球」
「分かってますよー」

先輩に言われて答えるとは最初にやったようにバットを振り伸びをしてから構えた。

「こいっ!」

三球目。
シュッ

「は?!」

は構えていたバットを持ち変えた。
それの行動に思わずキャッチャーである先輩から驚愕の声が盛れた。
ガキンッ
それと同時に金属音が響く。

「はい、しゅーりょー。私の勝ちー」
「え、ちょ、おい!?!」

バットを降ろしながら笑顔でいうと先輩が立ち上がった。」

「いやいやいや、何やってんのお前!」
「バントかー、やるなー」

動揺する先輩に対し山本がカラカラと笑いながらやってきた。

「この看板できてからずっと気になってたんですよね」

バットを同輩に渡しながら看板を見る。

「当てりゃ勝ちなんでしょ?バントとかスクイズ有りだなって。かっ飛ばせって書いてませんし」
「1本取られたな」

リボーンがの肩に乗りながら言った。

「そうだけども!空気読め!」
「戦略的と言ってください」

あははっとは笑う。

「今のうちに注意事項書いとこうぜ」

せこせことその場にいた面々が看板に文字を書き足していく。

「今までその発想の挑戦者が出てこなかったほうが笑いですよ。
 で、景品、もらえるんですよね」

ニッと笑みを見せては先輩へ詰め寄った。

「持ってけドロボー」
「じゃぁ、ゲーム機って言いたいんですけど、重いんでそこのコーヒー豆で」
「良いのか?これで」

山本がコーヒー豆を取りながら確認する。

「どうせそのゲーム機、部員の私物でしょ?勝てない前提で考えてんだから」

の言葉にははっと乾いた笑いが聞こえた。

「リボーンにお土産」
「俺にか?」
「一緒にいてくれてるからね」
「そっか」

受け取った豆を見せながらは笑う。

「じゃ、皆がんばってうちの部に潤いくださいねー」
「おー」
っ」
「ん?」

去ろうとしたを山本が呼び止めた。

「今日最後までいるのか?」
「うん。そのつもり」

二日目はキャンプファイアーが締めになるが、模擬店の運営時間が終われば生徒達は帰っても良い話にはなっている。

「そっか」

何処か安心した様に言った山本には首を傾げる。

「何?」
「いや、何でもねぇや」
「そう?じゃね」
「おう」

山本に手を振って今度こそはその場から離れた。

「無自覚か?」
「何か言った?リボーン」
「何も言ってねーぞ。さ、次だ次!」

リボーンに促されては文化祭巡りを再開した。



「それでは文化祭を締めくくりますのは!キャンプファイアーです!!皆さんカウントダウンをお願いしまーすっ!!」

すっかり日も落ちて空が黒く染まった頃、校庭では盛大なキャンプファイアーが行われていた。

「みんなハイだなぁ」

その様子をは校舎の屋上から見下ろしていた。

「ここにいたのか」

屋上の扉が開くと共に声がした。

「あれ、山本」
「ちゃおっす」

軽く手を上げながら山本が近づいてきた。

「一瞬1人かと思った」
「え?あぁ、リボーンか」

と同じように山本もフェンスへもたれかかる。

「あれから小僧と一緒だったのか?」
「当たり前だろ?デートだぞ」

ニヤリと口許を上げてリボーンが言う。

「今日は後半ずっと一緒にいたよね。
 そういう山本は?あれからずっと?」
「あぁ。終わりまでずっと『打倒!山本!』やってたぜ。あとなんか色んな女子に告られた」
「…そっか。さすがは甲子園ヒーロー?」

身長差のある二人。
上から零れてくる言葉には眼下を見ながら軽く笑うように言った。その表情が僅かに歪んでいたのを知るのは真横にいたリボーンだけだ。
は答えながら昼間に声をかけてきた女の子たちを思い浮かべた。
彼女達は想いを伝えただろうか。でも、おそらく自分の隣りにいる人物はそれを全て断わったんだろう。それでも『打倒!山本!』で倒されるほど精神的にグラついたりはしていないはずだ。悪い意味ではなく、もちろん良い意味で。
彼は自他共に認める野球馬鹿だ。
目指すものがある今、恋愛事に逸れることはないだろう。
最も、恋愛事に現を抜かす姿も想像しにくいが。

「…何か、変な気分だ」

下に広がるグラウンドを見ながら山本が呟いた。

「何が?」
「分かんねー」
「何それ」
「あー、やめやめ。で、お前等はどっか行ったのか?」

フルフルと軽く頭を振ると山本は別の話題を持ってきた。

「俺とはデートだったからな。ワタアメとエスプレッソ美味かったな」
「よく言う。不味くはねぇが修行が足りねぇなとか言ってたくせに」
「さすが小僧なのな」

ははっと2人は笑う。
その時、がある事に気づいた。

「あれ?どうした?山本」
「え?何が?」

急に言われて山本が聞き返す。

「眉間に皺。珍しい、獄寺みてぇ」
「え?マジか?」

山本が自分の眉間を触る。

「疲れてんだろ、これでも飲め」

リボーンは懐から並盛牛乳を取り出し山本に渡す。

「お、くれるのか?小僧。サンキュー」
「じゃぁ、俺は先に戻るぞ。またな」

フェンスから校庭へ向けてリボーンは飛んだ。

「オイッ!」

思わず山本が声を上げる。
が、瞬時にレオンがパラシュートとなってリボーンはゆっくりと校庭へと舞い降りて行った。

「へ〜。やっぱなんでも出来るんだなっ」

降りていくリボーンを見ながら山本が感心する。

「山本」
「んー?」

は少し顔を上げて山本を見る。

「お疲れ」

笑って言われたその言葉に山本の口許が綻ぶ。

もお疲れ」
「ん」

短く返事をするとは再びグラウンドへと目を向けた。

「あ〜っ」

山本が大きく伸びをする。

「何か変な気分すっ飛んだ」
「へぇ」

は再び山本の顔を見る。
確かにさっきまであった眉間の皺がなくなっている。

「やっぱ小僧のいうとおり、並盛牛乳に限るな!」

そう言って笑うと並盛牛乳を飲み干した。

「さて、向こうも終わったみたいだし、ツナ達のとこ合流しようか」
「あぁ」

そうして2人は屋上をあとにした。


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