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中学2年
学校も終わり、皆、帰路についている。
部活や委員会がある者はそちらに行っているが、無ければ帰るだけだ。
もその帰宅する生徒の一人。今日は部活もない。学校にいても、特別することもないから、帰るだけだ。
部活の休みが被れば、友人達と帰るが、一人は部活が休みではないらしく、もう一人は、放課後になるやいなや、教室を出て行ったらしい。相手が相手なので、横から掻っ攫うわけにもいかない。
ということで、本日は、一人で帰宅だ。
一人の時は、ウォークマンで音楽を聞きながら帰ることが多い。今も、の耳には、イヤホンが見える。
「珍しいのな、が一人って」
聞き覚えのある声に、足を止め横を見れば、山本が立っていた。
は、片耳だけ、イヤホンを取る。
「皆部活とか、彼氏とかで一緒に帰れなかったからね。山本、部活は?」
野球部はほぼ休みはないと言っていい。それなのに、何故、こんな時間に山本がいるのか。
「この間、試合だったから、今日は休み」
言われて、そういえば、この間は試合だったと思い出した。山本にいわれたから、応援にも行った。
「で、は何聞いてるんだ?」
どうも、山本は、が聞いている曲に興味を持ったらしい。
別に隠すことでもないから、答える。
「友達に貸してもらった、オムニバス」
正確には、友人が編集したオムニバスCDを借りてそれをMDに録音したもの、ではあるが、そこまで言うのは面倒だ。
「俺も聞きてー」
山本がの聞いてる曲に興味を持った時点で、そのようなことを言うだろうとは予想してたが……。
「いいけど」
が、もう一方のイヤホンも外そうとすると、山本はそれを止めた。
「片方だけでいいぜ。十分聞こえるしな」
そして、先ほど外してた方のイヤホンを着けたのだ。
要するに、一つのウォークマンのイヤホンを、片耳ずつ共有しているということだ。
相手は山本だから、別に嫌なわけではない。が、相手との距離が近い。あまり離れると、イヤホンが抜けるし、かと言って、近くにより過ぎるのはイヤだというのがの気持ちであって、もちろん、山本はそんなことは考えてもいないだろう。
「引っぱると外れる、けど近寄んな」
「はは、どっちだよ。面白れーのな」
の気持ちなんて、お構いなしで、山本は笑っている。
「うるさいなぁ」
そんな山本に若干イラっとしつつも、がイヤホンを外してしまうことはない。
それが分っているからこそ、山本は笑っているのだろう。
結局二人は、暫くの間、一つのウォークマンで、並んで曲を聴いていた。
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