晴れ後に雨、気持ちは雨後に晴れ

中学三年




「…」

濃い灰色をした空からザァザァと降る雨を
校舎の玄関口からぼんやりとは見ていた。
その横を生徒達が次々と通り過ぎていく。
透明な傘、黒い傘、緑の傘、ピンクの傘。
玄関口を過ぎたら開いていく傘が視界に映る。

「雨か…」

止む気配のない雨を見ながらはポソリと呟いた。
朝は晴れていた。それは見事な快晴で。
予報ではおそらく雨だと言っていたのだろう。
今日は珍しく寝坊して、慌しく家を出たため、予報を見る暇がなかった。
そして、こんな日に限って折畳みの傘を持ってきていない。

「どうしようか…」

よくないことは続くもので、いつも一緒に帰っている友達は
用事だったり部活の定休日だったりで既に校内にはいない。

「あれ??」
「?」

後ろから声が届き振り返る。

「山本」
「部活お疲れ」
「おつ」

声をかけてきたのは同じクラスの山本。
何の因果か1年からこっちずっと同じクラスだ。
運動部同士なので、時々部活上がりに鉢合わせすることがある。

「何してんだよ、こんなとこで」
「えー。雨降ってるなーって思って」

隣りに並んだ山本に尋ねられ何でもないように答える。

「さっさと帰れよ野球部」

何となく気まずくなるのが嫌で、はシッシッと手を振った。

「お前、傘は?」
「…」

手ぶらなを見て山本が尋ねる。
本当に必要ない時にばかり気が付く奴だとは思った。

「一緒に入ってくか?」

ひょいと自分の傘を掲げて山本が尋ねる。

「山本といると悪目立ちするんだよなぁ…」

ポソリとは呟いた。
長身で、運動ができる。野球部のエース。
容姿については好みそれぞれだが悪いわけじゃない。
格好良い部類に入るだろう。
運動会などでは特に目立つ。つまり人気が高い。
それが証拠に山本と話している今も幾つか女子の視線を感じる。
そんなことを気にする山本ではない。
そして自分でもない。
ただそう
自分は後々面倒に巻き込まれるのが嫌なだけで。

「早く帰ろーぜ?」
「私は何も言ってないはずだが?」

山本の中では既に帰る方向らしい。
はやや苦い顔をして言った。

「んな細かいこと気にするなって。
 それとも傘貸してやろうか?」
「いや、それはご免被る」
「じゃぁ、決まりな」
「…」

ニッと笑顔を向けられは小さく溜め息を吐いた。

「じゃぁ、まぁ、お世話になります」

ポンッと開かれた傘の下に滑り込む。
ザァザァと降る雨が傘に弾かれて音が大きくなる。

「肩、大丈夫か?」
「うん。お前こそ濡れてないだろうな」

自分と違って山本は野球部のエースだ。
それに運動部は肩を冷やすと良くない。
野球部ともなれば尚更だろう。

「心配ねーよ。ほら」

ひょいと左肩を見せて山本は濡れていないと示す。

「なら、良い」

は小さく頷いた。
少ししてクツクツと笑う気配があった。

「何?」

やや不機嫌そうにが山本を見上げると
其処にあったのは気配どおり笑顔。

「悪ぃ、何か嬉しくてさ」
「は?何が?」

山本の言っている意味が分からないといわんばかりに
の眉間にシワが刻まれる。

「俺も分かんねーんだけど、なんとなく」
「なにそれ」
「だから俺にも分かんねーんだって」
「テキトーだなぁ…」

それでも尚、機嫌良く笑う山本につられるようには笑った。


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